代々木上原&公園エリアは、おしゃれで洗練された新しいお店が次々に増えているのはいうまでもありません。いっぽうで、長い間愛され続けている老舗がいくつもあります。飲食店の栄枯盛衰を繰り返していくこの街に丈夫な根を張り、愛される理由はどこにあるのか? 変わらないこと、変わったことは?昔からある人気のメニューは?
今回は、代々木公園駅の路地裏にオープンしてから27年、洋食屋「関口亭」をご紹介します。
「私が一番だ!」と自信が持てた
1993年からこの街で洋食屋を営んでいる関口亭の店内は、赤と白のギンガムチェックのクロスがかけられたテーブルが並んでいて、まさに「街の洋食屋さん」といったレトロな雰囲気がたまりません。
まずは、創業者であり現役シェフの関口康史(せきぐち やすし)さんにお伺いし、関口亭の歴史を探ってみました。
――この富ヶ谷の地に洋食屋を開いたきっかけは何だったんですか?
私自身は埼玉県出身ですが、妻が駒場に住んでいたり、渋谷でお店を営んでいる兄を手伝ったりして、30代から渋谷近辺で生活をはじめたんです。その後、病院の食堂で調理師になることが決まったのですが、たまたまいい物件が見つかって急きょ自分のお店を開くことにしました。
それから近くの洋食屋を食べ歩くと、本格的な洋食屋がなくて「私が一番だ!」と自信が持てたんです。そして、メインストリートからちょっと外れたところにある立地もよかった。ちょっと広くて家賃が高かったけど、その分頑張って稼げばいいと開店を決断しました。
――当時、代々木公園の街はどんな印象でしたか?
オープンしたての頃、この街は地元意識が強かった。よそ者と地元の人たちの隔たりもなく、代々木八幡商店会の会員になって「代々木八幡をみんなで盛り上げよう!」という結束力もありました。クリスマス、餅つき、七夕など四季のイベントも盛んでした。
今、この街に多くのお店ができて賑わっているのも、商店会の人たちが一生懸命に街を盛り上げようと努力してきた結果だとおもっています。
些細なところから人間関係がはじまって、お店の信用が築かれていく
――30年近くもの長い間お店を営んでいらっしゃる中で、大切にしていることはありますか?
開店当時は本格的なフレンチに近いメニューを出していましたが、お客さんとのコミュニケーションが必要だとおもうようになったので、もっと気軽に食べられる洋食に変えたんです。
カウンターキッチンにしているのも「こういう人間が、こういう料理を作っていますよ」と見てもらうことで、お客さんとの距離を近くしたかったから。カウンター越しからお客さんとお話をする。そんな些細なところから人間関係がはじまって、お店の信用が築かれていくとおもうんです。
そして、自分が料理できても自慢しちゃいけない。お客さんに合わせないといけないとおもっているから、お客さんの声をメニューやお店づくりに取り入れるようにしています。
お客さんから「料理の味が濃い」といわれて初めはムッとしたけど、参考にして調整しました。そういうアドバイスをしてくれるのも、お客さんとの信頼が築かれているからこそでしょう?
お客さんと共につくられた歴史
店内のイメージを演出している赤と白のテーブルクロスも、実はお客さんが生地を買ってきてくれたものなんだそう。
他にも、お店のカードや厨房の手前に飾ってある絵は、お客さんが店主とお店を描いたイラストの作品。長い月日の中で、お客さんと一緒に歴史をつくり上げていく様子が店内の所々に見られました。
進化しないと伝統は守れない
康史さんがお客さんと共につくり上げてきた関口亭は、今年4月から2代目として次男の真太郎さんが主となってお店を切り盛りしているんだそう。なんと真太郎さんは、東京の小川軒や関西の老舗洋食屋と有名店で約3年間修行した経験を持つ、若き23才!
――ご子息である真太郎さんにお店を引き継がれて、変わったこと、変わらないことはありますか?
デミグラスソースだけは味を守ってもらってます。それは万人が好きな味だから。他の味付けについては、感性によるものだから息子に任せています。メニューも息子のアイデアに従ってランチメニューを増やしたらお客さんが増えたし、これまで私が作っていたメンチカツに息子の工夫を加えたら、ハンバーグを超える人気になって雑誌でも取り上げられました。
私は、進化しないと伝統は守れないとおもっています。だから息子には「どんどん変えてくれ」と伝えています。変えて欲しくないものは、デミグラスソースとお客さんを大切にすること、食べて笑顔になるような料理を作ること、ただそれだけです。
味噌や醤油を隠し味に
関口亭は、日本人の舌に合うように味噌や醤油を隠し味に、フレンチと和食両方の技法を取り入れた独自の洋食が特長。人気のハンバーグとメンチカツをはじめ、夏はカレー、冬は煮込みといったシーズンに合わせたメニューなどバラエティ溢れる洋食が楽しめます。
昔から愛されている人気のメニューから2代目シェフ真太郎さんおすすめのメニューまで、関口亭自慢の逸品を紹介!
煮込み料理「ビーフシチュー」。良質な牛肉を使っているため、脂身も美味しいと評判。
「デミグラスソースのハンバーグステーキ」は、創業当初から今でも関口亭の看板メニュー。
A5ランクの宮崎牛特選牛を使った「ビーフカツレツ」は、最も美味しく食べられる焼き加減で柔らか。
紅ずわい蟹をふんだんに使った「カニクリームコロッケ」は、なんとおにぎり型。油で揚げずにバターで焼き上げるこだわりも。
年に夏と年末の2回しか作らない「ポークカレー」は、3日間かけて作るんだそう。
白い御飯と味噌と醤油にこだわる店として、ディナータイムでは「中川一辺陶の土鍋」で炊いたご飯が食べられます。
「前菜5種盛り合わせ」は、季節ごとの旬の食材を厳選。
真太郎さん考案のデザート「大人のプリン」は、お酒を効かせたまさにオトナの味!
ご飯と味噌汁、隣り合う父と息子の背中
店内で美味しい料理を食べていると、BGMでクラシック音楽が。これに父・康史さんと息子・真太郎さんが二人三脚で「ジュー」っとお肉を焼き、「コトコト」鍋に火を通している音が乗ってテーブルまで聴こえてきました。
料理に添えられるご飯と味噌汁、隣り合う父と息子の背中……。
まるで実家に帰ったような懐かしさと、なにかホッとした気持ちに。
こんな家族っていいなぁ〜。
都心のど真ん中にこのお店が在り続ける意味が、なんとなくわかったような気がしました。
関口亭
住所:東京都渋谷区富ケ谷1-52-1 中川ビル1F
営業時間:ランチ11:30〜14:00/ディナー18:00〜21:00 ※日曜日はディナーのみ
定休日:水曜日
電話:03-3465-8373
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