お昼から、そばと酒を嗜む。
「あのお店のアレ」があるから、代々木上原に行きたい!暮らしたい!と思う名物をピンポイントでご紹介する連載企画第28回。
今回は「そばと酒えもり」の「せいろ蕎麦」をご紹介します。
おすすめしてくれたのは、ガストロノミーカフェ「dish」のオーナーシェフ益田さん。
「地蔵通りにあたらしく出来たお蕎麦屋さん「そばと酒 えもり」がすごくいいお店なのでぜひ行ってみてください。お蕎麦はもちろんのこと一品料理も美味しいです。月に2~3回くらいのペースで通っています。」ーdish オーナーシェフ 益田さん
「そばと酒 えもり」は「SPEAK EASY SALOON BEAUTYSMITH」や「LE CAFE DU BONBON」が並ぶ地蔵通りにあります。代々木上原駅から向かった場合は「Adult Oriented Records」を代々木八幡駅方面に少し進んだあたり。白い暖簾が目印です。(MAP)
せいろ蕎麦(季節の天ぷら盛り合わせと季節野菜のおひたし) 1800円(税込)
産地ごとの個性を活かす、自家製粉・手打ちの十割そば
銀座の名店「手打ち蕎麦 成冨」で修行を積んだ榎森さんが昨年10月にオープンした「そばと酒 えもり」。全国の様々な産地から選りすぐりの蕎麦の実を取り寄せて店内で自家製粉しており、産地ごとに打ち分けた手打ちそばや、旬の食材を使った肴、地酒を堪能できるお店です。
この日の手打ちそばは栃木・益子の「常陸秋(ひたちあき)そば」。香りの高さと豊かな滋味が特徴。
食べ方も味わいも、品種や生産者で変わる
そばの品種は、季節やその日の仕入れ状況に応じて毎日2種類を用意。夜のコースや、お昼はせいろ蕎麦に追加する形で産地ちがいの蕎麦を食べ比べることができます。
店主の榎森俊司さん
産地でどのくらい違いがでるのかをきくと、店主の榎森さんはこう説明してくれました。
「たとえば自分の地元の山形は、東京の蕎麦とちがって、“噛む”蕎麦なんです。東京はすすって香りをたのしみながら食べますよね。山形は板そばといって、太いそばをしっかり噛んで味わうんです」
「蕎麦の実の段階でも、大きさや、色もちがいますよ」と見せてくれたのが、この日挽いていた福井・大野の「大野在来そば」。
「イメージしやすいところでいうと、豆によってちがいを楽しむコーヒーと似たようなものかもしれません。実を挽いて、水(お湯)と混ぜるという意味では、原理も近いとおもいます」
十割蕎麦の場合、素材となるのは蕎麦の実と水のみ。蕎麦の実は農家さんや先輩の蕎麦屋さんから直接仕入れを行っているそうで、まさしくスペシャルティコーヒー(※生産から焙煎、仕入れ、販売まで一貫して生産管理がなされたもの)と同じような流れです。
蕎麦の実ごとに最適な粗さや挽く速度を調整する。先輩の蕎麦屋さんでは、自家製粉だけでなく自分で畑まで行って、植え付けや刈り取りまでやる方も多いとのこと。
そばつゆはだしのうまみを引き立たせており、麺をしっかりと絡ませても塩辛くなく、そば本来の香りを楽しむことができる。
この日はわかりやすくコーヒーに例えて説明して下さいましたが、産地や生産者、その過程をきちんと顔がみえるものにするのは、あくまで自然な流れとのこと。食べ比べという手法も、グルメなひとだけがわかるマニアックな嗜み、というよりも「単純に、比べたり味のちがいを体験するのはおもしろいから」と食の楽しみ方をひろげるための試みなのだそうです。
「蕎麦前」で広がる、昼飲みの愉しみ。
「そばと酒 えもり」におけるもうひとつの主役が、日本酒です。榎森さんの地元・山形をはじめ全国から集めた選りすぐりの銘柄が並びます。
「日本酒は、しっかりとした味わいのものが多いです。2~3年寝かせて、常温や熱燗で飲むとおいしいもの。お料理やお蕎麦にあうことも考えていますが、自分が好きで選んでいるお酒が大半です(笑)」
季節の天ぷら盛り合わせ。色とりどりの旬の野菜が8~10種類並ぶ。
店名に「そばと酒」と冠していることからも、お蕎麦の前に肴をつまむ「蕎麦前」をたのしむ工夫が随所に散りばめられています。
「東京のお蕎麦屋さんには昼飲みの文化があって、その嗜みを知っているかたも多くいらっしゃいます。ひとりでカウンターに座ってお酒を飲みながら小説を読んだりしていて、粋な楽しみ方だなぁと修行先のお店時代から感銘を受けていました」
「ここでも昼酒を楽しんでもらえたらという意味で、すべての昼のおそばには、1品目として季節野菜のおひたしがついています。蕎麦を召し上がる前にお酒とあわせてちょっとしたおつまみとしても召し上がっていただけるといいなと」
「また、せいろにつける天ぷらは「天先」というかたちで天ぷらを先にお出しして、ほどよいところでお声がけいただいて締めにお蕎麦をお出しすることもできます」
奥行きのある立派なカウンターは、信州地方の古民家を解体した古材を使用。カウンターは8席で、ひとりひとりのスペースを大きくとってある。
椅子は、山形の名産〈天童木工〉。「ひとりで本をよみながらお酒を飲んだりしていても、ゆったり座れるように」との思いから座面も広くとってあるものをチョイス。
店内はすべて山形の名産〈天童木工〉の椅子で統一しており、一式取り揃えるのも高価だったのでは?ときくと、「いえ、好きで以前から集めていたのでそうでもないですよ」と榎森さん。
さらにお話を伺うと、飲食の道に進む前、榎森さんは家具や雑貨を扱う仕事をしていたそうなのです。
「もともと僕は飲食業ではなくて、イームズの椅子などの家具や雑貨を扱う会社にいたんです。6年ほどその会社にいて、海外で買い付けをするにあたり英語が必要なので、バンクーバーへ留学に行きました。現地で生活をはじめるためにバイトとして始めたのが飲食でした」
そこで飲食のたのしさに目覚め、現地の料理学校を経て、帰国後は都内の和食店で修行。いちど幡ヶ谷で自身のお店を構えたのち、将来的に故郷・山形でお店をひらくべく着目したのが、地元でも名産として古くから根付くお蕎麦だったといいます。
蕎麦猪口も独立前から好きで集めていたもの。江戸時代後期の、古伊万里が現役で活躍している。割れたり欠けたときは自ら金継ぎをほどこしているそう。
「銀座のお蕎麦屋さんで修行させてもらって、その後は山形に帰ろうかなと思っていたのですが、蕎麦職人の先輩方をみていて、もうちょっと東京でやりたいなと思ったんです。住んでいるのが初台で、近くを探していたら、運良くこの物件がみつかりました」
店内に品よく設置されている置物も、山形名産の骨董品。
七福神の神様が囲碁をしている、珍しい置物。「もともと古着や昔の家具、雑貨も古いものが好きなので、その延長線上ですね」
暖簾にも使用されている「そばと酒 えもり」の文字は、榎森さんのお父様が書いたもの。「書いてみてもらったら、上手で味があって驚きました(笑)」
編集後記
東京の蕎麦文化は歴史が長いだけに、「いいお蕎麦屋さん」はどこか敷居が高いような気がしていました。榎森さんは異なった業種から修行を経て蕎麦屋さんになったことから「外」の目線が加えられていて、「そばと酒 えもり」は凛としていながらどこか肩の力が抜ける気楽さも漂っていました。
蕎麦好きな方が大満足するのはもちろんのこと、蕎麦文化にこれまで触れてこなかったなー、昼からお蕎麦屋さんで飲むの憧れてるけどやったことないなーという方も、新しい世界が開くこと間違いなしです。
そばと酒 えもり
住所:東京都渋谷区元代々木町10-10
電話:03-3469-7422
営業時間:12:00~14:00、18:00~21:00(LO)
定休日:水曜(木曜は夜営業のみ)不定休あり
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