気鋭シンガー3人が代々木上原「OPRCT」に集結
UKからジャズ・カリスとルビー・フランシス、日本からはMALIYA…。気鋭シンガーが3人も、5月25日(土)に代々木上原のOPRCTへ国の際を超えて集結しました。この箱でライブイベントを観るのは2回目ですが、なんだかずっと前から知っているような感覚を覚えます。代々木上原の街がそうさせるのでしょうか。駅の南口を出て線路沿いに歩き、道を一本奥に入るとOPRCTのその姿が見えてくる。閑静な場所に突然現れる「秘密基地」。ミュージックラバーにとっては、ひとしおの安心感があります。今年1月のこけら落としライブはBIGYUKIとAnna Wiseによるものでしたが、そのカッティングエッジなOPRCTのスタンスは抜群の安定感。
トップバッターのMALIYAから始まるスリーマンライブは、さながら新世代シンガーの饗宴のようでありました。ド級の才能が本格的にブレイクする前の、鮮やかな輝きがそこかしこに。
MALIYAが見せた“日本人女性のR&B”
USの90’sネオソウル~現行インディーR&Bを網羅するようなアプローチでありながら、随所に差し込まれる日本語のリリック。インターナショナルなOPRCTのフロアも相まって、MALIYAのステージ中は非常にエキゾチックな情緒に溢れていました。スムースな「Skin」は、さながらハイファイな解釈のアシッドジャズ。けれども、その鳴り方は海外勢のそれとは異なっています。後に登場するジャズ・カリスとルビー・フランシスは共にUKのシンガーで、ジャンルで言えばMALIYAとも確実に近いところにいるのですが、音の聴こえ方はまるで違いました。使用言語が異なると、それぞれが演奏する音楽も影響を受ける。単語同士がブレンドされ、言葉同士が繋がって聞こえる英語、文字要素をひとつひとつをはっきり発音する必要がある日本語。構造的な相違がある言語を自在に融合させるMALIYAのリリックは、メロディとリズムを伴ったときに変化が生じるわけです。たとえばこの曲とか。
ここ最近、歌詞の中で英語と日本語を使い分ける意味が変容しつつあるように思います。国内の音楽を海外に流通させる難易度が以前に比べて格段に下がった今、リスナーとして想定されるのが日本人だけではなくなり、違う言語圏にもリーチできる可能性が出てきました。そうした背景から、“日本語で歌う”ことはすなわち、それだけでアイデンティティを表明することにも繋がるわけです。MALIYAの音楽のように海外のシーンとも共振するようなプロダクションであればあるほど、その効果は強く出るでしょう。彼女は今年の4月に新作EP『unswyd』(上のDrop me a lineも収録)をリリースしましたが、このスタンスについてはそれ以前から一貫しているような気がします。この日のセットリストが新旧織り交ぜた内容であったことからも、それが窺えるでしょう。先述の通り、この日のフロアには外国人のお客さんも多数おりまして、肌感覚として「音楽に日本的な何か」を求める人の数は増えているのではないかと感じています。何かの機会に外国の音楽ファンを集めて座談会のような機会を設けたいですね。せっかくOPRCTのような複合スペースもできたわけですし、そろそろ広いスケールで音楽シーンについて考えられると良いのかなと。アーティストだけでなく、シーン全体がオープンマインドになれると音楽はもっと面白くなれるはず。海外勢の中にただひとり、日本人のディーバとしてパフォーマンスするMALIYAを見て、改めてそう思いました。
オルタナティブに場所が移り変わるロンドンと、そこから生まれる才能
MALIYAの次に登場したのはルビー・フランシス。一昨年2017年にデビューアルバム『Traffic Lights』をリリースした彼女は、UKのR&B界が誇る新鋭であります。一発目に持ってきたのは、同作に収録されている「Paranoid」。渋い。ずっしりとした重量感のあるビートに、艶のある歌声を乗せます。彼女もまた、ネオソウルの申し子であるように思います。「ロンドン以外で演奏するのはこれが初めてなの」とMCで彼女は言ってましたが、その記念すべき舞台が日本なのは嬉しいですね。しかも代々木上原。渋谷や原宿のように、対外的に「文化の発信地」であるイメージが確立されていないこの地が選ばれたことは、何かの始まりを予感させます。
ロンドンにも「Fabric」のように象徴的な音楽スペースはありますけども、新しいムーブメントは街中で常に起きています。たとえばストーク・ニューイントン(ロンドン北東部)には「EartH」という施設が昨年2018年にオープンしましたが、ここは元々1930年代に英華を極めた劇場でした。直近では、Black MidiやPlaidのライブが予定されています(行きてぇ)。ストーク・ニューイントンはロンドンの中心街ほど賑やかではないのですけれど、落ち着いていてカルチャーが息づく雰囲気は、代々木上原にも共通するように思います。“街の新陳代謝”と言いますか、オルタナティブに場所がカルチャーの移り変わりと共に移動してゆく力学が、ロンドンの街では働いています。あ、ストーク・ニューイントンと代々木上原の共通点ですが、「ご飯が美味しい」もありましたね。
※この記事はライブレポです。「関係ない話ばかりしおって!」とお叱りを受けそうなので、そろそろ本題に戻ります。「On My Knees」や「Complicate Our Love」と、コケティッシュでメロウなナンバーが続いた後、ついに「All of the Time」が投下。その瞬間にメモをバッグにしまい、フロアに特攻致しました。みんな好きでしょ、コレは。初見でも抗えぬ4つ打ちのグルーヴ。人類のDNAに刻まれた「踊る」マインドに深く突き刺さるのです。他2人と比較しても、ルビー・フランシスはオーディエンスの身体性を引き出す能力は抜群であったように思いますね。最後に「Heart Rate」を歌い上げ、出番を終えました。
UKが生んだ、Erykah Baduの正当後継者
そして珠玉のスリーマンライブのラストを飾るのは、同じくUKのシンガー、ジャズ・カリス。2018年にベルリンの音楽プラットフォーム「A COLORS SHOW」に出演して以降、強い存在感を放ち続けています。事実、彼女の「Petty Lover」は動画再生回数710万に迫る勢いです。
この日はギタリストをひとりだけ伴った編成で登場。彼女の曲は基本的にミニマルな構成なので、ギター1本でも十分再現可能なのです。それどころか、歌声がより映えるため更に情感豊かに聴こえました。「Sugar Don’t Be Sweet」はそもそも原曲からしてギターとヴォーカルのみのシンプルな作りですしね。ルビー・フランシスにも言えますが、今回のライブの特徴はカバー曲の多さ。ジャズ・カリスはDrakeの「Houstatlantavegas」と、エリカ・バドゥの「On & On」を披露しました。後者の際にはルビーをステージ上に招き入れ、まさかのデュエットを始める大盤振る舞い。
英語のインタビューも含め、ジャズ・カリスはよくエリカ・バドゥへのリスペクトを表明しているのですが、その正当性を強く感じました。繊細だけれどもよく通り、さながらシルクのような歌声を聞かせてくれます。声が残響してその場にとどまる感じもすごく似ていますね。生まれが違っても後継者が現れるところに、非常に2019年を感じませんか。アフロアメリカンの精神性が、海を越えてロンドンの次世代のシンガーに継承される。
ジャズ・カリスが「COLORS SHOWって知ってる?」とフロアに向かって聞いた瞬間、この日一番の歓声が上がりました。こんなふうに、アーティストとオーディエンスの双方で良い雰囲気を作ってゆく感じがたまらなく好きです。「ライブの楽しさってコレだよなぁ」としみじみします。このやり取りも含めて、この日の「Petty Lover」はこの日しか観られません。録画したものを後日楽しめるとしても、生の体験にはまったく敵わないのです。現場が最高。「Petty Lover」のあと、アンコール含め2曲(「You Do」、「Is This Love(Bob Marleyのカバー)」)披露されたのですが、いずれもこれまでの聴き方を更新するパフォーマンスでした。
次はバンド編成のライブも聴いてみたいですね。その時は、またぜひこの3人で。
■ JAZ KARIS Live at OPRCT
日程: 2019.05.25 sat
会場: OPRCT (渋谷区上原1-29-10)
出演: Jaz Karis / Ruby Francis (O.A.) / MALIYA (O.A.)
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