代々木上原駅の北側に位置する「上原駅前商店街」。先日ご紹介したお弁当の「金兵衛」など、上原らしいお店が立ち並ぶこの商店街に、また一つ気になるお店が誕生しました。それが、2023年4月にオープンしたモロッカンデリ『darna(ダルナ)』です。
お店の目印は、商店街のメイン通りから見える淡いピンクの看板とベンチ。店の前の階段を登って購入するテイクアウト専門店です。窓から笑顔で迎えてくれるのが、シェフの清水理恵さん。調理から販売まで一人でお店を切り盛りする清水さんに、開店のきっかけやモロッコ料理の魅力、代々木上原の街についてお話を伺いました。
ー色々な国がある中で、モロッコに興味を持ったきっかけを教えてください!
清水さん:料理の専門学校を卒業後、パティシエの技術を学ぶためにフランスに留学していたんです。フランスとモロッコは結びつきが深く、街中にモロッコ雑貨店やレストランが多いんですね。まず最初はモロッコ雑貨に興味を持ち、雑貨の可愛さに魅了されました。フランスから帰国後もモロッコ雑貨への興味は変わらず、帰国して数年後にオープンした自分のお店の内装にもアイアンの椅子やタイルテーブルなどのモロッコ雑貨を使いました。
そのお店が軌道に乗って6年ほどした時に、知人が「モロッコでレストランをオープンするからパティシエとして来てくれないか」と誘ってくれたんです。モロッコに興味はあっても、自分が宗教も文化も異なるアフリカの国に住めるのか最初は不安でした。でもそのレストランがカサブランカにオープンすることが決まって、知人を訪ねて遊びに行ったら意外と都会だったんです。住めそうな手応えを感じて、モロッコに移住しました。
ーどのようにしてモロッコ料理に興味を持ったんですか?
清水さん:モロッコで勤務したのは和食のレストランでした。でも従業員はみんなモロッコ人。11時半になるとみんなで賄いを食べるんです。最初は私が日本のカレーなどを作っていたんですけど、次第にあまり食べてくれなくなって。そこで従業員に好きなものを作ってもらったら、モロッコの家庭料理を作ってくれたんです。それがモロッコ料理との出会いで、「モロッコ料理ってこんなに美味しいんだ!」と驚きましたね。私がモロッコ料理を好きになったことを知って、スタッフたちがレストランの休憩時間にパンや間食メニューなど、色々教えてくれました。最後はお店を超えて、料理上手なマダムのお家に遊びに行ってモロッコ菓子なども教わりました。
ー現地の方に家庭料理を教えてもらう機会は貴重ですね。モロッコの家庭料理の特徴や魅力を教えてください!
清水さん:モロッコの代表的な家庭料理は、円錐型の鍋で作るタジン料理。モロッコ人は、ほぼ毎日、朝昼晩の3食タジン料理を食べています。モロッコは国土の半分が砂漠なので水が貴重なんです。貴重な水を使わず、食材の水分をタジンで蒸すことで、食材の旨みを凝縮させ、栄養を逃がさない調理ができるんです。
タジンは大きいサイズから1人用まで様々なサイズが売られていて、大体どの家庭もタジン鍋を持っています。切った野菜に肉や魚を乗せて、蓋をして火にかけるだけなので、工程も簡単!ハンバーグやオムライスみたいな料理名やレシピがないので、みんな家にある食材を組み合わせて作っていますね。唯一特別なのが、金曜日。金曜日は、蒸した粒状のパスタに、肉や野菜を煮込んだスープをかけたクスクスという料理を食べます。イスラム教で安息日である金曜日の午後は家族でクスクスを食べる習慣があるんです。現地の習慣に倣い、darnaでも金曜日にクスクスを提供しています。
日本人にとってモロッコ料理ってあまり馴染みがないじゃないですか。でも日本人の口に合う味なんですよ!「スパイスを使うから辛そう」とイメージされる方も多いんですが、インド料理のような複雑な香辛料を使わないので、辛味や癖がないんです。プルーンやアプリコットなどのドライフルーツを使うのも定番で、ほっこりした甘みのある味付けも多いんですよ。あとは野菜をたっぷり使うので、ヘルシーなのも特徴です。
店内には可愛らしいモロッコ雑貨がたくさん。右手前にあるのがタジン鍋。
ーdarnaをレストランではなく、テイクアウト専門のデリという形態にしたのはなぜですか?
清水さん:モロッコ料理が日本人の口に合うだろうという実感はあったんですが、レストランとしてモロッコ料理を広めるのはハードルが高い気がしたんですよね。モロッコは物理的に日本から遠い国であまり接点がないから、いざ「レストランにモロッコ料理を食べに行こう!」となる機会が少ない気がして。
気軽にモロッコ料理を知ってもらうためには、買いやすくする必要があるなと思ったんです。量り売りにして、一品から買うことができるお惣菜なら、レストランに入るより身近にモロッコ料理を楽しんでもらえるかなと思いました。
提供しているのは、日替わりの前菜3種類とメイン3種類。サラダは1カップ100グラム380円とコンビニ感覚で手軽に買える価格にしています。その価格なら「夕飯に一品足りない」という時に一品買って食卓に並べてもらいやすいですよね。あとは、市販のお惣菜って揚げ物が多かったり、栄養バランスが偏りがちなのが課題だなと感じて。手作りで野菜がたっぷり入ったヘルシーなお惣菜を提供できたら喜んでくださる方も多いかなと思いました。
上段は前菜三種、下段はメイン三種。メニューは日替わりなので、何度通っても飽きずに楽める。メインの一種をサフランライスやクスクスと合わせてランチボックスにしてもOK。メインが盛られた器は清水さんがモロッコで買い付けたもの。色やデザインが素敵。
ーなぜ、代々木上原で開店したんですか?
清水さん:代々木上原はいろんな国のレストランがあるので、異国の料理も受け入れてもらえる環境だなと思っていました。あとはお惣菜屋さんなので、住宅街への近さも意識しましたね。賑やかな奥渋あたりも検討したんですが、代々木上原は年齢層が高めで、落ち着いた街の雰囲気が決め手になりました。
あとは、自宅から近かったのも理由の一つです!開店を決意して、物件を探したら今の物件が空いていることがわかって。自分が2年半ほど住んで、街の雰囲気や物件の魅力を知っていたので、内見から1週間で物件を即決しました。
モロッコで産出されたアルガンオイルなど、本格的な調味料も購入可能。自宅で本格的なモロッコ料理に挑戦することもできる。
ーお客さんはどのような方が多いですか?
清水さん:外国人の方が2〜3割を占めていて、それは代々木上原の土地ならではの特徴だなと思います。お店の近くにモロッコ人が住んでいて、その方はヘビーに買いに来てくれます。モロッコ人に食べてもらえるのは味を認めてもらえた気がして嬉しいですね!
あとは近隣の主婦の方が多いですね。50〜60代のマダムは好奇心旺盛な方が多くて、通りがかりに「なんのお店?」とフレンドリーに話しかけてくださいます。会話からリピーターになってくださる方も多いです。夕方には、お子さんを自転車に乗せたママが夕飯準備の買い物の合間に寄ってくださったりしますね。
気になったら窓から気軽に話しかけてくださるのが嬉しいんですよね。この気軽に話せる雰囲気はレストランでは実現できなかった距離感だなと思います。予約が必要なお店ではないので、お客さんの名前や連絡先は知らないけど、お互いに顔を覚えて世間話をするってちょっと不思議な関係ですよね。そのゆるい繋がりがいいなと思いますし、私自身も毎日楽しませてもらっています。
窓越しに会話を楽しんで吟味できる。この物件ならではの買い物体験。
ー今後、清水さんがお店を通して挑戦したいことがあれば教えてください!
清水さん:まだオープンして2ヶ月なので、今はこのお店を長く続けていくのが目標です。料理の専門学校を出てから今に至るまで、ずっと料理が好きで。元々好きなことしか続かない性格なので、きっとこれからも料理に飽きることはないんだろうと思います。でも、40歳を過ぎて体力が低下すると、雇われて調理場に立つ厳しさを感じることも増えてきました。なので、調理も販売も自分のペースでできるお惣菜屋さんというスタイルは、自分が料理の仕事を長く続けていくための理想的な方法だなと感じています。
「ちょっと変わった料理を売っている街のお惣菜屋さん」という存在で、お店を長く続けたらいいですね。そしてお店の窓を通じて、たくさんの方にモロッコ料理の魅力を伝えていけたらいいなと思っています。
darnaオープンはACT LOCALLY編集部でも大きな話題に!
そして、今回編集部スタッフで清水さんのモロッコ料理をいただきました。
<ランチボックス>
メルゲーズのクスクス (税込¥1,100)
香辛料入りソーセージのメルゲーズと、たっぷり野菜が入った、食べ応え十分のランチボックス。
モロッコでは、パスタとスープが一緒になった料理を”クスクス”と呼んでいるのだとか。
<デリ>
写真左:ザルーク (ナスとトマトのサラダ) (1pcs ¥380) 写真右:モロッカン人参とスパイス (1pcs ¥380)
モロッコ料理で代表的な前菜のザルークは、100gでなすが1本分入っているそう!
あとを引く絶妙な味付けは別売りのピタパンとの相性も抜群。
イタリアンパセリがアクセントになった、茹でたモロッカン人参のサラダも、さっぱりと頂けるスパイスの効いた絶品サラダでした。
鶏肉とジャガイモのタジン (¥560/100g)
柔らかく煮込んだ鶏肉と、味付けされたジャガイモの組み合わせ。
クミンなどの香辛料とパクチーがアクセントになっていて、しっとりとしたジャガイモ、鶏肉の仕上がりはタジンならでは。
牛肉と揚げなすのタジン (¥600/100g)
柔らかく煮込んだ牛すね肉と、味付けされた揚げなすの組み合わせ。
こちらも香辛料の主張はそこまで強くなく、日本人の口にとても馴染む味付けのデリでした。
darnaで使われているクミンやパプリカなどの香辛料は清水さんがモロッコで買い付けてきたもの。個人的に驚いたのがクミン。ふわっと漂う香りや味が日本で買うクミンとは全く別物!小さなスパイスで、こんなにも料理の味に差が出ることに驚きました。素材の良さとスパイス使いの妙でバランスの取れた清水さんのモロッコ料理。香りや味を紐解きながら食べ進める楽しさは、満足度の高い体験でした。
プルーンで煮込んだ鶏手羽元のタジンを自宅でいただいたところ、甘い味付けが食べやすかったのか子どもが気に入って食べていました。darnaでは料理に白い砂糖を使わず、デーツシロップやドライフルーツで甘みを出しているそう。まろやかな優しい甘さなので、子どもも安心して食べられますね。老若男女、家族みんなで楽しめるのもモロッコ料理の魅力の一つと言えそうです。
モロッコワインやカサブランカビールなど、ここでしか飲めないドリンクも充実。
お惣菜以外のおすすめは、ミントティー。モロッコでは必ず目にする国民的な飲み物で、現地では砂糖たっぷりでホットで飲むんだそう。darnaでは砂糖は入れていないので、自分で甘みを調節できます。暑い今の季節、さっぱりしたアイスミントティーは格別の美味しさですよ!モロッコブランドSAYRAのミントティーが飲めるのは日本ではdarnaだけ。
取材中、清水さんと会話しながら、楽しそうにランチやディナーを吟味していた常連さんの姿が印象的でした。清水さんとの会話や料理に癒されて、エネルギーチャージしている上原住人は多そう。店名のdarnaはモロッコ語で「私たちの家」という意味なんだとか。オープンからまだ2ヶ月ですが、お店はその名の通り、お客さんにとって我が家のように心地よい場所になっていました。
darna
【住所】〒151-0062 東京都渋谷区元代々木町23-4
【営業時間】11:00〜19:00 不定休(Instagramを確認ください)
【TEL】090-3405-1387
【WEB】 Instagram
ALL PHOTOS:SHO KATOH
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