代々木上原駅からも幡ヶ谷駅からも、少し離れている住宅街の中。
大きな桜の下に沢山のママチャリが停まっていてどこか生活感がある佇まいと、ウッディでお洒落な外国の雰囲気漂う空間が絶妙にマッチしている、コーヒーショップ「PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)」があります。
このPADDLERS COFFEEの代表である松島大介さんは、10代の時に単身でアメリカ暮らしを経験していたり、お店が所在する西原商店会の理事として地域の活性化も精力的に行っていたりと、とてもユニークな方なんだそう。
そこで今回は、西原の街に溶け込んでいるPADDLERS COFFEEと、バイタリティ溢れる松島さんに注目してみました。
人や文化を知るには、実際に行って出会うことが大事
――若くして早々と、なぜ渡米したのですか?
ずっと野球部だったんですが、中学生の頃に近所にスケボーショップができてから、スケボーをはじめ音楽やファッションが好きになって。それらのほとんどがアメリカのカルチャーだと分かって、渡米したくなったんです。
当時、姉が英語を習っていた先生の故郷がアメリカの西海岸だったので訪ねてみたら、トントン拍子で単身アメリカへ留学することに。それから約7年間、高校から大学とポートランドで過ごしました。
アメリカに住んでいると、中東、アジア、中南米、アフリカ…いろんな国や文化の人に出会う機会があって、そういう人たちがどんな環境で生まれ育ったかを実際に見てみたかった。だから帰国後の20代後半は、テレアポ、タクシーの配車案内、コンビニ、など英語を使えるアルバイトをして、お金を溜めては長期で外国へ旅に出る…を繰り返していました。
誰かのことを深く知りたくなったら、その人が生まれ育った国に行って、現地に触れてみる感覚は、アメリカでの生活で慣れていたし、異文化への抵抗は一切ない。それが、お店のお客さんや地域のさまざまな人たちとの出会いがある、現在の仕事につながっているような気がします。
人が集えるような場所をつくりたい
――旅人だった松島さんが、PADDLERS COFFEEをオープンしたきっかけは何だったのでしょうか?
25才の頃、中南米のブラジルへ旅行中に東日本大地震が起きて、すぐに帰国して宮城県に向かい、現地で被災者の支援活動をはじめました。震災をきっかけに、いろんな人と話したりシェアしたりする場所を作ろうと思うようになったんです。
アメリカの生活では、コーヒーショップに何の目的もなく通って、知り合いと喋ったり店員さんと仲良くなったりすることが習慣でありつつも、僕にとっては何か特別感があった。でも、意外と東京にはそんな場所がないなぁ…と実感して。
誰一人欠けてもお店は成立しない
被災地で知り合った仲間と幼なじみだったのが、現在お店のパートナーでありバリスタの加藤(健宏さん)なんです。当時の僕は、コーヒーにも深い知識や興味がなく、ただの飲み物としか思ってなかったけど、すでに渋谷でコーヒーショップを立ち上げていた加藤と知り合ったことで、コーヒーショップをオープンする道が開けた。
パドラーズコーヒーは、僕が表に立っているように見えてしまうけど、実際は加藤と僕で50/50の関係。加藤はコーヒーで、僕はコーヒー以外のことを担当しているし、他のスタッフもそれぞれの役割があるから、このお店は誰一人欠けても成立しないんです。
店内に併設するイベントスペースでは、アパレル、アートショー、物販など、これまでに200を越えるイベントを実施していました。イベントきっかけで長いお付き合いさせてもらっている人もいます。家具と生活雑貨を扱う姉妹店のBULLPEN(ブルペン)も、イベントでものづくりしている人と出会えたことがきっかけでオープンしました。
西原商店街というコミュニティ
――自ら西原商店会の理事になった理由は? 就任してから、商店街に変化がありましたか?
バドラーズコーヒーをオープンする時に、「まずは、商店会に入ろう」と最初から決めていました。僕は、もともと中野の商店街のド真ん中に住んでいて、祖父の代からお店を営んでいる父も商店会長をやっていたし、子供の頃から商店街に入るのが当たり前の環境で育ったから。
世代や業種が違う人たちとコミュニケーションを取るのも好きだし、会合に参加するのは全然苦じゃないんです。
商店会に入って理事をさせてもらっている中で、ローカルな沢山のお店とのつながりができました。店舗物件が空いたらお店を開きたい人を紹介する繋ぎ役も担います。
地域のお店同士が”共存共栄”することを大切に
コーヒー以外のほとんどのフードメニューは自分たちで作らず、他のお店に依頼しています。人気メニューのプリンは、近くのパティスリーショップEqualさん、ホットドッグのパンは、カタネベーカリーさんに特注で作ってもらっています。
僕が育った中野の商店街でも、卵ひとつを買うにしても知り合いから買うのが当たり前だったから、地域のお店同士が”共存共栄”することを今でも大切にしたい。
西原というコミュニティを、地域のみんなで創っていくことが”僕たちらしさ”
元々、カタネベーカリーさんをはじめ、いろんな老舗や素敵なお店がある街に、後乗りで僕らがコーヒーショップを始めてから、花屋さんに、自然派ワイン、レコード屋さんと……どんどんコミュニティの輪ができて、この5年間でいろんなお店ができました。
僕らの功績というよりは、この街を魅力的に感じてくれる人、外から越してくる人、お店を開きたいと来てくれる人がどんどん増えているから。
これからも、この街に僕たちと同じような感覚を持っている人が増えて、街自体が盛り上がっていって欲しい。そうやって、西原というコミュニティを地域のみんなで創っていくことが、”僕たちらしさ”だと思っています。
これからも西原商店街のひとつのお店として、パドラーズコーヒーを通して様々なきっかけづくりや、街を好きになってくれる人を増やすための”草の根運動”を続けていきたいです。
どうやったら人が気持ちよくなれるか?
――新型コロナ感染が流行してから、お店の状況に変化がありましたか?
とにかく忙しく毎日の業務をこなしながら走り続けていましたが、新型コロナ感染流行による自粛期間を機に、「さてどうしよう?」と、いったん足を止めてみる時間ができました。
「どうやったらもっといいお店になるのか?」を考えて、まずは店内の席数を少なくしたので、時間制を設けました。ホットドッグを食べてコーヒー飲むのに、そんなに時間は必要ないんじゃないかと思って。最初から時間を決めておけば、お客さんもお店もお互い気を遣わなくて済むし、回転もよくなりました。
どうすれば、お客さんが気持ちよくなってくれるんだろう?
状況の変化に臨機応変に対応しながら、ルールや正解もない、この課題をいつも考えています。
いつも人がいて、いつでも入れる、安心感のあるお店
――今後、どんなお店にしたいですか?
僕は、ふらっと行ったときに、いつでも入れるお店が好きなんです。
だからパドラーズコーヒーも、本当はいちコーヒー屋として毎日営業したいし、いつも人がいて、いつでも入れるお店を目指しています。昔ながらの中華屋さんとかは、SNSなんて全くやってないけど、常にお客さんがいて常に入れる。そういう安心感があることを大切にしたい。
ただコーヒーを飲みながら誰かと話したり、空間を楽しんだり……そういうお店になれたらいいな。
小さな街の当たり前の日常だけど、特別感があるお店とコミュニティ
――これから、西原商店街がどんなコミュニティになっていくのが理想的ですか?
子供にすごく興味があるので、体にいい食べ物が売っているオーガニックスーパーや、教育にいい本が買える本屋さんがあって、子どもたちが当たり前のようにいる場所になってくれたら嬉しいです。
親と一緒に行った場所とか、子どもの頃に見る光景は、意外と大人になっても記憶に残ると思うんです。僕も、中学生の頃に近所にスケボーショップがあったから、いろんなカルチャーに触れられたし。
親に連れられてきて、心地よい空間と音楽に触れて、成長した時にふとこの場所のことを思い出して、何かのきっかけになる。
西原という小さな街の当たり前の日常だけど、特別感があるお店とコミュニティが作れたらいいなとおもっています。
“僕ら”が、リアルに共存するということ
生まれた頃から商店街で育ち、若くして単身で渡米し、さまざまな文化や人と共に青春時代を過ごしてきた松島さん。
そして現在は、西原という都心の小さな街で、まさに”現代版の商店街”を再生させて、家族や友達と同じように、そこで出会う人たちと共に生きている。
人と人とのコミュニケーションがリモートに変わり、デジタルな世界が加速しつつある今、ローカルに根ざした人たちと、リアルに関わることの大切さを、あらためて実感したような気がします。
お店の佇まいに存在感がハンパない50年を超えた大きな桜の木に、春は花見に、夏は木陰に人が集まってくる……。
インタビューの中で、松島さんが度々発していた「僕ら」「コミュニティ」「お互い」という言葉は、”共存”という彼自身の生きざまが反映されているようです。そして、それは私たちがこれから生き抜くために、必要なことなのかもしれません。
PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)
住所:東京都渋谷区西原2-26−5
TEL : 03-5738-7281
営業時間:7:30-17:00
定休日:月
HP / Facebook/ Instagram
※新型コロナウイルス感染拡大防止にともない、現在は時間を短縮して営業中。
RELATED
関連記事