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ルーティンじゃなくて、実はオーダーメイド。 「熊田靴店」の店主に聞いた、楽しい靴磨きのこと

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『夢をかなえるゾウ』という本があります。累計発行部数は460万部以上。

この小説仕立ての自己啓発本はダラダラと人生を過ごしている会社員の主人公のもとにゾウの姿をした神様ガネーシャが現れ、次々と課題を出すという物語です。

主人公はその課題を乗り越えていくうちに人生で大切なことに気づき、次第に成長して、本当は昔から憧れていた建築家になるというストーリー。

同作は2007年に刊行を開始して以降シリーズ化されているのですが、その1作目で最初に主人公へ言い渡された課題が「靴磨き」。

ゾウの神様ガネーシャからその内容を聞いたときには訝しがっていた主人公でしたが、課題を実践するうちに自分の靴を大切に扱うことで得られるメリットを学び、それがきっかけとなり次々と課題をクリアして、最終的に夢を叶えたのです。

富ヶ谷一丁目交差点のすぐそばにある「熊田靴店」は、そんな靴磨きのプロフェッショナルがいる店。

もちろん『夢をかなえるゾウ』の主人公のように自分で靴を磨くのもいいですが、プロに預けて、最高の状態に仕上げてもらうのも楽でいいですよね。

そんな熊田靴店を訪ねて、成り立ちや提供しているサービスについて聞いてみました。

 

チャンスは意外な形でやってきた

店主の熊田さん。1993年、神奈川県川崎市生まれ。名門・桐蔭学園の野球部出身

熊田靴店の店主は、元小学校教諭の熊田圭一郎さん。靴について質問をすると丁寧に答えてくれる、気さくな人柄が魅力です。

熊田さんは日々店頭で来客の対応をするのですが、作業内容の相談をしているうちに話し込んでしまい、営業時間中に作業ができなくなることもあるのだとか。

そんなふうに預けられた靴と1足ずつ真摯に向き合い、磨きや修理を施してくれるのです。

本人も丁寧に磨き込まれたブーツを着用。こちらはTricker’sの1足

取材の冒頭で熊田靴店の成り立ちについてうかがったところ、「実は僕、この店のオーナーじゃないんですよ」との返答が。

詳しく聞いてみると、「自分でなにかの店を始めてみたい」と考えている人にとって、とても夢のある話でした。

 

───熊田靴店のオープンはいつでしょうか。

2021年です。ここで営業を始めてから3年が経ちました。

───その前は別の場所に?

 

フグレンコーヒーの近くにアミーチという古着屋があるんですね。その店先を借りて営業していました。とはいえ最初はお客さんからお金をもらわずに、ただ靴が磨きたくて。

そのときは小学校の先生をしてたんですけど、その後辞めたタイミングで、せっかくなら靴磨きを仕事にしたいと思ったんです。それで昔からの友人に相談したら、彼がアミーチの店長と知り合いでして。

そこから話を進めてもらって、店先で靴磨きをさせてもらうことになりました。

───そこで修業を積んで、ご自身のお店を構えることになったんですね。

はい。ただ、熊田靴店は富ヶ谷不動産という会社がオーナーなんです。僕は店長という形でして。

──そうなんですね。アミーチみたいに知人を通じて知り合った、という感じですか?

いえ、まずは店を始めようと思って、店舗探しで富ヶ谷不動産へ相談に行ったんですね。そこで物件をいろいろと紹介してもらったんですが、予算が合わず…。

想定よりも全然コストがかかると知って、驚いたんです。ぜんぜん無理そうな金額だったので諦めようとしたら、富ヶ谷不動産の社長が僕の考えていることを「おもしろそう」と言ってくれて。

そんな流れで、熊田靴店を会社の事業のひとつとして始めてもらえることになったんです。

───なんだかドラマみたいな話ですね。

ですよね(笑)。それから3年、ここで店をやらせてもらっています。富ヶ谷不動産には本当に感謝しているんですよ。

 

職人気質は野球部のときから

───大学を卒業して小学校の教諭をされていましたが、靴磨きは自体はいつから?

大学生のときからハマっていたんです。磨いた靴に合わせる服も好きで、ビームスでバイトをしていたり。

教員だった期間も趣味として靴磨きは続けていて、休みの日をまるまる使って没頭することもありました。

僕はゲームすら3日で飽きてしまう性格なんですけど、靴磨きだけは退屈しないで続けられた趣味だったんです。

───本当にお好きなんですね。

もっと言えば、高校生のときから「磨く」という作業はしていました。

僕は野球部だったんですけど、高1の 秋に怪我をしちゃいまして。 選手として活動できなくなったんですね。

そこからマネージャーに転向して、部員みんなのグローブを磨くようになりました。ほぼ男子校みたいな学校だったから、女子マネージャーとかはいなくて。学年に僕1人だけのマネージャーだったんです。。

───それは大変そう。

そんなポジションにいると、部員のみんなからグローブやスパイクを磨いてほしいと頼まれるようになるんです。たしか、修理もやったかな。

まずは理想のグローブについてヒアリングして、「ボールをキャッチしたときにピタッと止まるような仕上がりがいい」とか、その逆がいいとか。

そういうリクエストを聞いて、「このグローブはあまりオイルを使わない方がいいな」と試行錯誤してました。野球部員でもA君とB君で好みのオイルが違うから、それぞれ渡してもらって試したり。そういった経験は、今の仕事にもつながっていると思います。

───靴磨き職人としてのキャリアスタートですね。熊田さんのお話を聞いていると「天職」という言葉が浮かんできます。

そうかもしれないですね。中学校で同じ野球チームだった子や、当時の友達も「今の仕事、合ってるね」と言ってくれます。

というのも野球をやってるときから道具をきれいに整理して、練習が終わったら玄関でグローブやスパイクをひたすら磨く、ということをしていたので。

「人のものを磨いて喜んでもらう」という経験は、今の仕事につながる原体験だと思います。

 

楽しくなくなったら辞める

靴磨き選手権大会2024の選手名鑑。熊田さんも参加する

野球道具を磨くという経験を経て、靴磨き職人となった熊田さん。

学生時代に熱中していたことを職業にするのは一般的にハードルが高いとされますが、彼はみごとに夢を叶えたことになります。

そんな熊田さんは昨年、靴磨き業界の猛者たちが参加する「靴磨き選手権大会」(※)で3位となりました。店をオープンしてから3年。その技術は着実に進歩しているようです。

(※)「靴磨き文化の発信と発展」を目的に2018年より開催されている大会。プロアマ問わず、靴磨きを愛するすべての人びとが参加でき、技術を競い合う。主催は一般社団法人 日本皮革製品メンテナンス協会

 

───昨年の靴磨き選手権大会はいかがでしたか?

そもそも出場者の方々は僕にとって、画面の向こう側の人たちだったんです。みんなビシッとしたスーツを着て、ピカピカに靴を磨いて…とにかくかっこいい。憧れの対象でした。

だから正直、僕としては現実的なイベントに感じられなかったんです。「いつか出られたらいいなあ」くらいの感覚。でも去年、僕が職人になってから初めて大会が開催されたんですね。コロナでしばらく休止していたので。

それで、「自分も店をやるようになったことだし、挑戦してみるか」ということで出場しました。結果として3位を獲れましたが、出場する前はここまでいけると思っていませんでした。

───実際にお会いして、画面の向こう側の人たちはいかがでしたか?

さっきも言ったみたいに、みんなかっこいいスーツを着て、身なりがビシッとしてるので怖いと思ってたんですよ。実際、試合が始まる前はピリピリした空気でした。

でもコンテストが終わって話しかけてみたら、全然そんなことなくて。みなさん、要するに職人なんですよね。僕と同じ好きなこと、つまり靴磨きを愛してる人たちだから、互いに通じ合えるというか…。靴磨きについて聞けば親切に答えてくれますし。そこからは出場者たちの印象が変わりました。

───去年は3位を獲られました。今年も出場されますか?

出ます。去年出る前は怖いとか言っていましたが、やっぱり参加してみると1位を獲りたいという欲が出ますね(笑)。

それと、そんな個人的な理由とは別に、もっと若い世代に革靴のよさを知ってほしいという想いもあります。

僕は大会に出るときデニムにサスペンダーというラフな格好をしていて、それは見ている人に「靴磨きってこんな感じのカジュアルな雰囲気でもいいんだ」と思ってもらいたいからなんですね。

そうやって靴磨きに対する心理的なハードルを下げることで、興味をもつ人が増えればいいな、と。最終的にはこの業界全体が盛り上がれば嬉しいですよね。

看板犬の「殿(との)」

───熊田さんが靴磨きに熱中する理由は?

靴磨きってルーティンワークみたいに思われることがあるんですね。単純作業っぽいというか。

でも、それは違うんです。靴によって施すべき作業が違うから、1足ごとにオーダーメイドなんですよ。靴によってオイルやブラシなど道具を変える。磨き方も変える。そうやって状態に合わせて手を加えることで、預けてくれた人が満足できる仕上がりになることを目指しています。

───決して単調な作業ではないんですね。

はい。むしろ楽しい作業なんですよ。だから僕、靴磨き自体を楽しいと思えなくなったら、たぶんこの仕事を辞めると思います。

自分が楽しんで作業できていないものを、お客さんに提供したくないな、と。

もちろんお客さんのためにという想いはあるんですけど…。まずは自分が楽しむ。これが大事だと思っています。

 

熊田靴店の料金メニュー

 

熊田靴店の料金表。磨きから修理まで、多様なメニューが並びます

───提供しているサービス内容を教えてください。

革靴の靴磨きはスタンダードコースが2200円。ハイシャインコースが3300円です(以下、価格はすべて税込)

左がスタンダード、右がハイシャイン

対面磨きというコースもあり、これは僕がお客さんの前で靴を磨きます。

スタンダードが4400円、ハイシャインが5500円です。

前日までの予約が必須で、予約フォームからご連絡をお願いしています。

 

───革靴以外も預けられるんですか?

長年履いて黒ずんだスニーカーもスッキリときれいに洗ってもらえるのが魅力

はい。スニーカーにも対応しています。

こちらはスタンダードケア が2200円、手洗いケアが3300円です。超音波で洗浄するハイクラスクリーニングというコースもあり、6600円。

あとはスエード素材を使ったスニーカーの毛羽取りなんかも可能。スエードはしばらく履いていると毛羽立ってくるんですが、もとのようにきれいな状態に戻すことができます。

クタっと寝てしまったスエード生地も綺麗に仕上がる。ブラシやチャッカマン(!)を使用。スエードのケバ取りは1650円

───ここまで靴磨きの話を中心に聞いて来ましたが、熊田靴店は修理もされていますよね。内容を教えてください。

ヒールの取り替えからハーフラバーやスチールの取り付け、靴底の張り替えなど。あとは​ジップの修理も承っています。

店内に設置された大型のマシンで靴底を整える

もちろんその他お悩みの内容でも、相談していただければ解決策を一緒に考えさせていただきます。

レザーのシューズの一部だけ修復することも。ダメになったと思った靴を蘇らせることができるかも

自分の足を支えてくれる大切な靴は、磨いたり、修理をしてメンテナンスを施すことで、長く付き合えるようになります。

通勤や通学で日々お世話になっている靴はもちろん、しばらくシューズボックスに眠っているお気に入りの1足まで。これからも大事にしたいと思える靴があったら、ぜひ熊田靴店に預けてみてください。

熊田さんによる丁寧なメンテナンスを経て、これからもずっと履いていきたいと思える1足になって戻ってくるはずですよ。

 

熊田靴店(くまだくつてん)
【住所】〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷 1-44-16 半地下
【営業時間】火・水・金8 :30〜19:00、土・日10:00〜19:00
【定休日】月・木 ​(イベント出店等でお休みの場合あり。来店前にGoogleマップより要確認)
【TEL】070-1543-8992
【WEB】HP / Instagram

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