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ジャズが好きな人も、そうでない人も。みんなから愛される喫茶&バー「スマイルス」の鈴木夫妻が教えてくれた、この街の昔と今

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代々木上原駅の南口からまっすぐに伸びる「代々木上原南口商店街」。別名「音楽村通り」とも呼ばれるこの通りは、南端まで進むと井の頭通りに突き当たります。

その交差点のそばにはJASRAC(日本音楽著作権協会)のビルや古賀政男音楽博物館などがあり、音楽に由来する施設が立ち並ぶことからこの名前が付けられたのだとか。

そんな駅前の通りに、昼夜にわたり1日中ジャズ音楽を流している喫茶店があります。それが「スマイルス」。グリーンのテントに大きなガラス張りの外観、深い緑色の壁紙や飴色の床が、なんともお洒落な雰囲気を醸す店です。

創業して今年で27年目。マスターの鈴木英夫さんは、新宿にあるジャズ喫茶の名店「DUG」でマネージャーとして勤めた後、ここ代々木上原にこの店をオープンしました。1996年のことでした。

以来ジャズ好きの常連客を中心に、DUG時代の常連からZ世代まで、さまざまな層の人びとに愛され続けています。

スマイルスはマスターと奥様の夫婦で運営。この土地で30年近く喫茶店を営む2人に、店のことや代々木上原のことなど、あれこれ話を聞いてみました。

 

DUGで始まった2人の物語

普段はホールで接客を担当する奥様・鈴木幸子さん

幸子さん:「マスターとはDUGでアルバイトをしているときに出会ったんです。店が新宿にあって、バイトをするなら便利な立地でいいなって思ってね。当時、私が学生のころは喫茶店で働いたら不良って呼ばれちゃう時代だったんだけれども。

でもまあ、1日行って変なところだったらやめようって思って、とりあえず行ってみたらこれが楽しくて。お店の人もお客さんも芸術系の人ばかりで、安心して働けたんですよ」

中平穂積氏が1961年から40年にわたり撮り続けたジャズの巨人たちの写真を200枚以上収録した『JAZZ GIANTS 1961-2013』

1961年、ジャズ・フォトグラファーとして著名な中平穂積氏がジャズの名店「DIG」を創業。 場所は新宿アルタのすぐ裏。ロールキャベツで有名な「アカシア」が入るビルの3Fに店舗を構えていたそう。当時は会話禁止で、大きなスピーカーから音楽が流れるジャズ喫茶でした。

その後1967年、紀伊国屋書店 新宿本店の裏に、ジャズシーンの伝説となる店「DUG」がオープンします。 写真家や建築家、デザイナー、役者、そしてミュージシャンなど。多様なジャンルで活躍する著名人が数多く来店しました。

その後は靖国通りに場所を移し「New DUG」をオープン。現在はそこを「DUG」として営業しているそうです。

キッチンで調理を担当するマスター・鈴木英夫さん

英夫さん:「だから我々もね、この店をオープンするにあたって、ある意味個性的な店にしたかったんですよ。

世の中の流行はいろいろと変わるし、最先端をずっと追いかけるというやり方もあるんだけど、そこは目指していなくて。長く続けられる自分たちらしい店をやりたいなと、始めてみたんです」

2人がDUGで働いていた1970〜80年代、新宿はある種の最盛期にあったのだとか。バブルが弾ける前の時代。新宿には文化があり、個性的な店がたくさんあったといいます。


レジカウンター前に飾られている2人のチェキ写真

幸子さん:
DUGには写真家や建築家、デザイナー、役者、そしてミュージシャンたちがよく集まっていたのよ。そこでいろんなことを学ばせてもらいました。いい経験でしたよ、ほんとに」

 

代々木上原でオープンすることに

やがてマスターが学生のころから働いていたDUGから、独立することになります。

英夫さん:「ずっとDUGで働いていたから、最初は新宿で店舗を探していました。

だけど家賃の高さと、入れ替わりの激しい場所でお客さんを定着させる難しさを考えたときに、新宿はやめようと思い直しましてね」

―――そこから、なぜ代々木上原に?

英夫さん:「うーん、当時から住んでいる街だったからかな? そのときはまだ息子が小さかったから、やっぱり地元がいいだろうということで。この街に決めたんです。」

幸子さん:「そのころは渋谷とか西麻布が人の集まるスポットで、上原なんか誰も来なかったの。だからこの店にも、近所の人がぽつぽつとコーヒーを飲みに来るみたいな感じで。

ほんとに都会の田舎って言われてたくらい静かだったのよ。昔は『物販が成り立たない街』って、おばちゃんが買うような洋服屋さんしかないような場所だった。でも、今は若い人が買うようなお洒落なところが増えたよねえ」

―――現在の賑わっている雰囲気しか知らないので、それはとても意外ですね。いつから人気の街に?

英夫さん:「うーん、正確にはわからないんだけど、地下鉄が通ったタイミングかな? 千代田線ができたのは大きいでしょうね。この音楽村通りもそうだけど、すべての通りが変わった。とにかく上原は本当に変わりましたね」

店のオープンから約半年。近所にJASRACができたことで、客層にも変化があったのだとか。

英夫さん:「JASRACの影響で、レコード会社の人がよく来たんですよ。そのころはレコードが全盛だったからね。いろんな会社の人が入れ替わり立ち替わりで」

幸子さん:「そうねえ、作詞家や作曲家の先生もよく来てくれましたね」

―――店の内外装などでは、オープン当時と変化はありますか?

深いグリーンの壁には、あちこちにアート作品が掲げられています

英夫さん:「壁紙はもっと明るいグリーンだったね。うちはタバコがOKなのと、この20数年でいろんなものが染み付いて今の深い緑色になったのかな?

飴色の床もそうだけど、ここをデザインしてくれた建築家の先生が10年、20年先のことを考えた色にしようと造ってくれたので。ちょうど今、いい色になったかなって感じですね

幸子さん:「オープン当時は『なにこの店、こんな色して』っていう人もいてね(笑)。

やっぱり喫茶店だったら白とか、茶色とかが普通だったから。今はこの辺りにも斬新なお店がいっぱいあるじゃない? だからみんなどうも思わないけど、当時は『変わった店ですねー』なんてよく言われてましたよ」


店内の中央にはボックスシートを設けています

幸子さん:「流行を追うんじゃなくて、自分たちらしい店をずっと続けてきて30年近く経って。そしたらほら、逆に今の若い人たちがこの店をおもしろがってくれている、という感覚はありますよね」

英夫さん:「今の時代、これだけゆったりした店っていうのがあんまりないと思う。この店のボックスシートあるでしょ? これは、ザ・昭和な造りなんですよ。ゆっくりご飯食べて、お茶して、一服して。そういう店が今は減りましたからねえ」

 

ジャズをざっくばらんに聞いてもらえたら

レジカウンターの背後にはジャズのCDが300枚ほど並びます

―――店内でかけている音楽はやはりジャズですか?

英夫さん:「そうだね。ずっとジャズをかけています。基本的にはモダンジャズ。ピアノとかボーカルも多いかな」

―――音楽は、カウンターの後ろの棚から選んで流しているんですか?

英夫さん:「そう、今はほとんどCDで。裏にもまだまだあるよ。だいぶ減らしたけど、それでも300枚はあるかなあ?」

ーーージャズを好きになったきっかけはなんですか?

英夫さん:学生のころ、GS(グループサウンズ)がとにかく流行っていて。ザ・スパイダースとかザ・タイガースとかですね。それで音楽に興味を持ちました。そこからビートルズやリズムアンドブルースが好きになり、友達にジャズを好きなやつがいたから、だんだんとそっちに行った感じですね」

幸子さん:「私はマスターと少し世代がずれてるから、フォークみたいな反戦の音楽が青春真っ只中。ちょうどベトナム戦争があってどうのこうのって、そういう時代だったから。でも、ビートルズはどの世代でも別格ですね」

音楽村通りに面したガラス窓の中には、1967年に発売されたマイルス・デイヴィスの『マイルス スマイルズ』が

―――店名の由来を教えてください。

英夫さん:「喜劇王チャップリンの名曲で『スマイル』っていうのがあって。それと、僕が好きなマイルス・デイヴィスの名前から『マイルス』をとって、その2つをくっつけて『スマイルス』にしました。」

店内に流れるジャズは、こだわりのJBLのスピーカーから聞こえてきます

英夫さん:昔はね、レコードが高くて。みんな月に1枚買えるかどうかでした。

それでジャズ喫茶ってのが流行ったんだよね。そこで新譜が聴けるから。曲をリクエストして、大きなスピーカーの前に2.3時間いるのが、当時は当たり前だったなあ」

幸子さん:「あとオーディオセットもね。高いものをみんなが買える時代じゃないから、ジャズ喫茶に行っていい音質で聴くっていう。音楽を聴くための場所だから、店内での会話禁止、みたいなことも多くて」

幸子さん:「ただ、うちはそういうジャズ喫茶ほど音楽をがんがん流してるわけじゃなくて、友達と来て喋ってる人もいるし、別にここで音楽に集中して欲しいわけでもないからね。

イヤホンで聴くのと、空気に触れてる音楽を聴くのはまったく違うの。でも、別に『ちゃんと音楽を聴きに来て』ってこだわりはないんですよ、やっぱり、お店ですから。どちらかといえば、飲んだり食べたりを楽しんでほしいですよね」

 

すべて手づくりの食事メニュー

人気メニューのナポリタン

幸子さん:「そういうわけなので、お客さんにとって居心地がよくて、おいしくて、値段もそこそこっていう店づくりにはしてますよ

食事メニューの豊富さも魅力。普通の喫茶店では見かけないような料理もちらほら

幸子さん:「喫茶店だから、食事はスパゲッティとサンドイッチくらいしかないんだろうなと思って夜に来たお客さんは、メニューがいっぱいあってみんなびっくりしますね(笑)」

夜になればコーヒーやソフトドリンクに加えて、カクテルやウイスキーなど多様なお酒を楽しむことができます。オープン当初より30年近くにわたって、お酒を飲みに通う人もいるそうです。

そんな風に昔から変わらない空気で、みんなを受け入れてくれる。初めてだけどどこか懐かしい場所。それが「スマイルス」でした。

ひとたび入店すればマスターと奥様の人柄、そして雰囲気のある内装に虜になること間違いなし。

ジャズをBGMに、コーヒーやウイスキーなどを楽しんでみてください。

 

Smiles(スマイルス)

【住所】東京都渋谷区上原1丁目32-16
【営業時間】11:30〜22:00(〜13:00までランチ営業)
【定休日】日・祝日
【TEL】03-3465-7496

ALL PHOTOS:SHO KATOH

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