「カタネベーカリー」のおとなりに。
代々木上原と幡ヶ谷を繋ぐ西原商店街の端っこに位置する、ガラス扉の日用雑貨店「àcôté(アコテ)」をご存知だろうか。パン好きが足繁く通う「カタネベーカリー」のおとなりにあり、筆者も幡ヶ谷方面へ向かう際にはガラス越しに覗いていたものの、じつは今回の取材でお邪魔するのが初めて。
文房具屋さん・・・?
そう思って入ってくるお客さんも多いそうだが、カラフルでどこかレトロな雰囲気漂う雑貨たちがお出迎えしてくれる入り口近く。子どもの頃、だれもが一度は手にしたであろうトーヨーの教育折り紙、なわとび、クマのシャボン玉から、マスキングテープのmtまで。ひとつひとつがどこか懐かしくて可愛い。
もう一歩奥まで入ってみるとわかるのが、そのバリエーションの豊富さ。そしてふわっと耳に入ってくるフランス音楽のBGM。早速、店主の今村真紀さんにお話を伺ってみた。
実家に帰ったような懐かしさと、大好きなパリや海外の雑貨たち。
「日常生活にあったらちょっと便利で、ちょっとおもしろい、そんな観点で選んでいたらこんなお店になりました」
こちらで取り扱っている雑貨たちは全て店主の今村さんによるセレクト。
文具、食器やカトラリー、お掃除グッズから、オーガニックのチョコレートやハーブティー、キッチングッズ、ポスター、ドライフラワーなどなど。初めて見るものばかりなのに、初めて会った気がしない。海外の蚤の市の一角を訪れたような気分にもなる。
今村さんは以前、出版社で編集の仕事を経て、ファッションブランドでの勤務もされていたそう。まるで雑誌のページを編集するように選んでいるというその言葉をきいて、セレクトは幅広いのにどこか一本筋が通っているお店の在り方に納得する。
さりげなく置かれているレコードが目を引いた。若かりしファッションアイコン、ジェーン・バーキンがかわいく映る、夫セルジュ・ゲンスブールのピクチャー盤と、彼らの娘のシャルロット・ゲンスブールのサイン入りレコードだ。2枚とも今村さんの宝物だそう。
「これも買えますか?」
「いいえ、売りません(笑)」
女子心をくすぐる昭和レトロな日用品たち
「このあたりのものは、実家にもあったなんてひとが多いんじゃないでしょうか。」
と紹介してくれた台所用品はどれもノスタルジックなパッケージのかわいさ。日本の老舗メーカーで、それぞれきちんと役割を果たしてくれる名品ばかりだ。
今村さんがセレクトする雑貨たちは「このマグカップのイラストを描いている方は南スイスに住んでいて……」などなど、どれも商品の背景にストーリーがあり、こちらまでその物語の雰囲気に浸ることができる。いつもなら手にしないような日用品でも新たな側面を知り興味を持てるのは、とてもおもしろい。
àcôté(アコテ)のはじまり
àcôté(アコテ)はフランス語で「となり」や「身近」という意味。来てくれるお客さんの“となりに”だったり、“そばに”寄り添える日用雑貨たちを、という思いを込めている。
「実際には、アコテの“アコテ”はカタネベーカリーなんです。」
どうして代々木上原に?
今村さんは、おとなりの「カタネベーカリー」のオーナー片根さんの奥さんと学生時代からの友人だった。そんな縁があり片根さんに誘われて、2016年9月末、カタネベーカリーのおとなりにアコテをオープン。
「この西原のエリアって上原と幡ヶ谷どちらの方も利用しますよね。ご近所のお子さんやマダム、外国人旅行者の方、いろんな方がお店をのぞいてくれて、今ではちびっこの常連さんもいたり毎日楽しくやっています。」
全国から集まるパン好きの寄り道場所としてもいろんなお客さんが訪れているそう。
さらに「àcôté」と「アコテ」というお店の看板、一度見るとこのカクカクコテコテ(アコテだけに)したロゴデザインがとても印象的。じつは、デザイン事務所「KIGI(キギ)」を主宰するデザイナーの植原亮輔さんと以前のお仕事をきっかけに交流があり、特別にデザインしていただいたロゴだという。人望の厚いオーナーのこれまでに出会った様々なひとたちとの関わりが、このお店の外観や日用品のセレクトにも反映されている気がする。
日用品の延長にナチュラルワインを。
あれ、おサルさんの奥に見えるのは、ワインだろうか。つい気になってきいてみると、アコテでは日用品の延長としてナチュラルワインの販売もおこなっているとか。
代々木上原エリアでは、ナチュラルワインを出しているレストランは多いものの、ボトルで購入できる場所はなかなか限られていて、かつお値段も張る。アコテは日用雑貨店だからこそ、どれも比較的リーズナブルな価格帯のものがセレクトされていることが魅力だ。
ナチュラルワインには目がない著者としてもわくわくしながら覗いてみると、赤、白、ロゼ、オレンジワインと、小さなケースからは想像してなかったラインナップを次々と出してくれた。
毎週木曜、気まぐれ開催、ムッシュDによる突然試飲会
àcôtéのインスタグラムをみてもらえると結構な頻度で登場するのが「ムッシュD」の突然試飲会。
ムッシュDというのはお隣「カタネベーカリー」のオーナー片根大輔さんのこと。アコテに並ぶナチュラルワインは、彼がセレクトしている。
「ワイン選びはムッシュDがしています。私は飲む担当。」と笑う今村さん。ご自身はアルザス地方のナチュラルワインが好きで、お客さんにご案内できるように、というのをきっかけに、毎週木曜日の夕方は、その場に居合わせたお客さんと、ふらっと現れるおとなりのムッシュDも同席で、無料のおためし”突然試飲会”をおこなっているそう。
著者も好みを伝えて、ナチュラルワインを一本セレクトしてもらった。
「果実味たっぷりの、だけど口当たりはすっきりが好きです」という知ったようで知らない口で好みをお伝えしてみると、とっておきのを選んでもらえた。まず注いでびっくり、本当にオレンジワイン?と疑うロゼのような濃い色味。ピノグリのオレンジワインらしく旨味はしっかり、だけど飲み口はすっきり優しく、すいすい飲めてしまう一杯だった。
これは木曜日の夕方めがけての来訪が必須かもしれない。
最後に、代々木上原の魅力は?
「ひとことでいうと『気取らない』ですかね。上原やこの辺りにいるひとたちって、ナチュラルなお洒落というか背伸びしているような感じがない。街もそうかもしれないです。気取らずあたたかくてどこか下町みたいな。いいとこですよね。これ、魅力の答えになってますか?(笑)」
という気さくな今村さんのお話の仕方そのものが自然体で気取らない。どこか懐かしい、みんなのおとなり雑貨店アコテ、是非パンを食べに行きがてら、一度のぞいてみてほしい。
àcôté(アコテ)
住所:東京都渋谷区西原1-7-5
営業日:日曜・月曜を除く10:00〜19:00
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