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「代々木上原の調和的存在になりたい」。“紳士”のための理髪店

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みなさんこんにちは!最近は夜風が涼しくなって、秋の訪れを感じますね。

リモートワークも定着してきた今日この頃ですが、自宅にいると服装や髪型がつい緩くなってしまうという悩み(?)を友人たちの間でよく耳にします。
外出や通勤する機会が減ったとはいえ、身だしなみはいつだってきちんとしていたいもの。
特に男性ってメイクをしないので、ヘアスタイルがキマっていれば緩くは見えないですよね。
(筆者は女性なので、急なリモート取材時に焦らないようにまつげのエクステを検討中…)。

そんなコロナ禍の8月にオープンしたのが「富士東洋理髪店」。ナチュラルでありながらスタイリッシュ、オンもオフも「イイ男」でありたい“紳士”のための理髪店がオープンしたのです。


「3歳の頃に理容師になると心に決めていたんです」

代々木上原駅から歩くこと4分。「富士東洋理髪店」の看板が置かれたスタイリッシュな外観が目に入ります。重い扉を開けて迎えてくれたのは店長の阿部高大さん。

お店は東京ジャーミイの2軒隣。井の頭通沿いです。

翡翠色を基調としたアール・デコ調のクラシックモダンな店内に足を踏み入れると、タイムトリップした感覚を受けながらも心地よい空間が広がります。

クラシックな雰囲気の落ち着いた内装はすべて阿部さんがデザインを考えたそう。

料金表は阿部さんの小学校からの親友が直筆で書いてくれたもの。

阿部さんは、下北沢にある老舗の有名理容店「BAD-NICE」で6年間研鑽を積んだ実力の持ち主。若干28歳にして「いつか自分の店を持ちたい」という夢を叶えました。

「BAD-NICEのお客さんで、全国的にヘアサロンを展開されているオーナーさんがいたんです。僕のことを気に入ってくださっていて、店を出してみないかというお話しを昨年の10月にいただきました。30歳までに独立したいけれど、なかなか貯金ができなくて、なにかチャンスはないかと自分の夢をいろんな人に話していたことが結びついたんです。オーナーではないけれど、やっとスタートラインに立ったという感じですね。店名の由来は、日本の代表的な存在として崇められている富士山、そして海外からの技術を柔軟に受け入れながら東洋の技術をもって世界に発信していけるよう祈りを込めて名付けました」

聞けば、阿部家は祖父母の代から理髪店を経営されていて、父親も弟も理容師とのこと。現在も川崎で店を営まれているそうです。
「実家は弟が継ぐ予定なので、僕は僕らしい店を持ちたいとずっと思っていたんです。家族のことを話すとサラブレッドだと言われてプレッシャーなのですが、この職業を目指したきっかけはやはり家族なので、独立できた今、感謝の気持ちでいっぱいです」

理容師歴は8年。
一家全員理容師だけあって、
人を美しくしたいというDNAが阿部さんに確実に受け継がれています。

阿部さんが理容師を目指したのは3歳の頃。祖母が亡くなり、お葬式を祖父母のお店でやったところ、1000人以上の顧客が足を運んでくれたといいます。
「生涯にわたって、多くの人の髪を切り、髭を剃り、会話を交わしながら人々の日常に寄り添ってきた。祖母はたくさんの人から愛されて亡くなって、本当に素晴らしい仕事なんだと小さいながらに思ったんです。僕も大きくなったらこの仕事をやりたいと」

1950年代のアメリカカルチャーが好きな父親の影響もあり、学生時代は当時のジェントルマンの文化にも興味を持ちます。洗練された身だしなみはもちろん、品格と教養を持ち合わせた紳士のあり方を学び、トラディショナルなファッションに傾倒します。

凛とした美しさが特徴の1930年代のテーラードジャケットに身を包んだ阿部さん。

「紳士のスタイルを追求するうちに、1930年代のファッションの魅力にはまりました。ファッションとスタイルは自分の中で分けていて、ファッションはさまざまなものを取り入れながら自分のルーティーンを見つけるもの。スタイルは自ずと出来上がるものですから、年齢を重ねていく上で理想の紳士像を体現できるようになれたらと思っています」

阿部さんにとっての理想の“紳士”は、祖父、父親、そして東京を代表するテーラーcaidの山本祐平氏。
「その3人を3で割ったような男になりたいですね」

代々木上原という街の調和的存在になりたい

ずっしりとした重厚感のある椅子にはどこか懐かしさを感じます。

現オーナーから出店の話を持ちかけられた後、阿部さんはすぐに「富士東洋理髪店」のイメージを構築していきました。場所選びも任され、リサーチを重ねるうちに自然な流れでこの場所が見つかったと言います。

「僕の自宅から一本で行ける場所、感度が高い人が住んでいること、観光客も来ること、渋谷ほどごちゃごちゃしていない場所、と考えると代々木上原に辿り着きました。実際に来てみると居心地の良さに驚きますね。オープンして間もなく近所に住む90歳の老紳士が来てくださったのですが、古賀政男博物館の古賀さんとお友達だったと仰られていました」

歴史ある建築物が立ち並ぶ中に、ハイセンスな店が点在する。時代が変わっても、代々木上原という街を引き立たせるような、調和的存在でありたいと阿部さんは話します。

店舗イメージの根底にあるのは、昔、阿部さんが住んでいた学芸大学にあった昔ながらの理髪店。80代の理容師が50年以上続けていたお店の雰囲気が忘れられず、エントランス用に同じデザインのソファを特注しました。

このお店のファンだったというカメラマンが製作した写真集も大切な宝物だと言います。

「店がオープンしてから電話をかけてみたんですけど出られなかった。もしかするともう会えないかもしれません。店主が小柄な方で、上着をかけるのにちょうどいいのだと使っていたハンガーは、店を閉めるときに譲ってもらったものです」

市松模様のクラシカルな床は、高倉健主演の映画『あ・うん』の中で、「ヒゲでもあたりに行くか」(✳︎ヒゲでも剃りに行くかという意味)と板東英二とともに訪れた理髪店の市松模様のタイル床をイメージしたもの。

エントランスから一段上がった床は、そこからが演劇の舞台のように、ちょっとした緊張感を与えてくれます。阿部さんにとっても背筋が伸びる大切な境界線となっているそうです。

市松模様のサイズ感にもこだわったクラシックなタイル床。

店内のシンボル的存在のシルバー棚は病院で使われていたものを中古で買い付けたそう。
カッコいい!!

1950年代に阿部さんの祖父のお店で使用していた三角鏡を再現し特注でオーダー。

回転窓やカーテン、ドアはすべて昭和初期の理髪店をイメージ。

8月のオープンから1ヶ月。カットした人数は130人を超えました。独立をきっかけにはじめてみたのは、カルテを見ずに接客するということでした。

「カルテを書き始めるとどうしても接客が教科書通りになってしまうんです。型にはまってしまうというか、うまくいかないことがある。だったら思い切ってカルテをやめて、お客さん一人一人とコミュニケーションを濃密にとって、記憶力と感覚だけでやってみようと思ったんです。お互いの瞬間のパッションやエネルギーが大事だし、気分や体調もその日次第ですから。トライしたばかりなので結果は出ていないのですが、このやり方が自分に合っているような気がします」

ハサミは学生時代から使用しているもの、「BAD-NICE」の店長にもらったものなど、
思い入れのあるものばかり。

調髪の際に首に巻いて使用する昔ながらの衿紙。

アンティークの陶器に入れている肌触りのいいヒゲブラシ。山羊や馬の毛でできています。

店で使用しているのは200年の歴史を誇る香水職人により発明された「PINAUD」のアフターシェービングローション。
日本では入手困難なため、アメリカから直輸入。いい香り〜

阿部さんおすすめの「PRORASO」のシェービングクリームは店頭で購入可能。

「紳士をつくっていきたい」と語る阿部さんの揺るぎない目標が、「富士東洋理髪店」のスピリットとなってたくさんの人を惹きつける。古き良き時代のノスタルジーに浸るだけではなく、常に時代に合わせて自分をアップデートさせていく。そんな今どきのスマートな生き方が魅力的な阿部さんが、これからどんな紳士を生み出し、また、どんな成長を見せてくれるのかが楽しみでなりません。

時代が変わっても変わらないものを見つけに、ぜひ一度足を運んでみてください。
リモートワーク中の自分を少しだけアップデートできるかもしれませんよ!

富士東洋理髪店

住所:東京都渋谷区大山町1-22 BlueLeaf大山町1F
営業時間:火〜日 10:00〜20:00
定休日:月・第一第三火曜
TEL:03-6804-7238
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