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手作りオイルパステルを求めて、世界各国から人が集う。富ヶ谷の「河内洋画材料店」と、店主 河内裕子さんの魅力

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コンセプトは「絵を描かない人にも楽しめる画材店」

国内問わず、海外からも人が集まる話題のお店が富ヶ谷にあります。お店の名前は「河内洋画材料店」。今年の5月にオープンしたアトリエ併設の画材店で、店頭には常時300色以上のオイルパステルが並びます。

オイルパステルとは、クレヨンよりオイル分が多く、柔らかさが特徴の画材。河内洋画材料店のオイルパステルは、ヨーロッパの一流メーカーと比較され、海外の画材サイトで一瞬で完売してしまうほどの人気です。今回は、そんな話題のオイルパステルを一人で作っていらっしゃる、店主の河内裕子さんにお話を伺いました。

 

──「河内洋画材料店」を立ち上げたきっかけを教えてください

実家が心斎橋で画材屋をしていて、私は20年間本店の店頭で、画材の商品選定や企画をしていました。絵を描く方の人口は増減ありませんが、デジタルの普及とともに画材のニーズが減少傾向にあることを実感するようになりました。また、若いお客さんが「図工室の匂いだ!」とワクワクしながら入店しても、店内に買うものがないことを残念だなと感じて。

画材にこだわらず、多くの方に楽しんでもらえる商品を作れないかと思い、2017年に「絵を描かない人にも楽しめる画材店」というコンセプトで河内洋画材料店を立ち上げました。

河内さんのご実家は、心斎橋で100年以上の歴史を持つ老舗画材店KAWACHI。河内さんは三人姉弟の真ん中で、今は弟さんが家業を継いでいるそう。

 

──絵を描かない人をターゲットにする画材店とは、画期的ですね。どんな商品を準備されましたか?

まずは、画材からヒントを得たアパレルを考えました。スケッチブックや筆などを入れるために機能的に作られたバッグや、絵を描く際に着るブルーズ(スモック)を、日常使いできるデザインにしました。ですが、あくまでも画材店なので、インパクトがあって可愛く、世の中にはなかったオリジナル画材も検討しました。

アトリエは2年限定の定期借家。河内さんと知り合いの方で、床を抜いたり、壁を塗るなどリノベーションした。青い壁が印象的な空間はギャラリーコーナー。河内さんお気に入りの画材や文具、アパレルなどの商品が並ぶ。

家業の画材屋に残っていた昭和のデザイン画を元に作られたブルーズ。河内さんが着用しているデニムカラーのブルーズは昔のデザインの復刻版。絵の具で汚れれば汚れるほど、オリジナリティあふれる一着に。

 

──「世の中にない画材」とは、これも難しいテーマですね

難しかったですね。ヒントをいただくために、多くのアーティストに相談させていただきました。ある時、有名なファッションデザイナーの個展に伺ったんです。その方は、元々実家の画材店の古いお客様で、「子どもの頃に、心斎橋のお店で最初にパステルを買ってもらったことが、私たちのクリエーションの第一歩だった」と言ってくださって。

そう語るご本人の背景に、黒い大きなキャンバスにカラフルな太いラインで描かれた抽象画が飾ってあったんです。ご本人の言葉と抽象画のビジュアルが記憶に残って、反芻しながら帰宅して、「大きい画面に一発で太い色が塗れて、なおかつ可愛い形のパステルがあったら面白いかもしれない!」と新商品のアイディアを思いつきました。

「BIG OIL PASTEL」は3センチ角、長さ10センチで、通常のオイルパステルの15本分の大きさ。手でギュッと握って、力強く描くことができる。

 

その翌日に、パステルメーカーに、イメージした商品について問い合わせましたが、大きいサイズのパステルは製造が難しいと断られてしまったんです。それなら自分で作ってみようと、自宅のキッチンでオイルパステルを作り始めました。

 

──それまで、オイルパステルを作った経験はありましたか?

それが、全く作ったことがなくて(笑)。私は画材店にいましたが、絵も描いていませんでした。おそらくそれまでの自分だったら、「パステルを作り続けているメーカーに断られたらできるわけないだろう」と諦めていたと思うんです。

でも、当時ブランド準備の過程で、京都にアトリエを構える世界的な彫刻家のアトリエに通う機会があったんです。自分の表現を仕事にするアーティストの姿に憧れて、物作りがしたいと考えるようになりました。

私ができることを考えた時に、20年以上、画材屋という特殊な環境でお客さんと接していたことが一番の特徴だと思って。接客で常に絵を描くアーティストのニーズや悩みを伺っていたので、皆さんが求めていた描き心地や発色を目指して作り始めました。

 

──絵を描く経験がなくても、描き心地や発色などの手応えを掴めるものなんですか?

店頭で画材を扱っていた時に、仕入れで各メーカーの新商品を厳しい目で吟味していたんです。その経験が活かせたのだと思います。せっかく作るなら、一流のアーティストに認めてもらえる品質にしようと、成分はかなり吟味しましたね。色濃い発色や、柔らかい質感を求めた結果、上質な顔料をたっぷり使って、通常のオイルパステルの倍以上のオイルを入れることで、目指していた品質に辿り着くことができました。

 

手作りだから実現できる「形」と「質感」

 

──オイルパステルの作り方について教えてください

オイルパステルの材料は、顔料とオイルとワックス。その3つを湯煎で溶かし、型に流し込んで、固まったら型から抜いて完成します。固まるのは意外と早いのですが、油分が多いので、型からの取り出しに時間がかかります。1日6時間制作して、400〜600本ほど作っています。もう少し効率の良い作り方もあるかもしれませんが、この工程だから珍しい四角い形や、滑らかな質感に仕上がっているのかなと思います。

 

──オイルパステルを作る上で、大変だと感じることはありましたか?

とにかく汚れることですかね(笑)。最初は賃貸マンションのキッチンで作り始めたので、毎回キッチンが汚れないようにサランラップで養生していました。でもどうしても汚れるので、綺麗に拭き取ることが大変でした。汚れること以外は結構楽しいんです。キッチンに篭って、手も服もドロドロになりながら作っていると、ふと「私、なんでこんなことやっているんだろう?」と思うことがよくありますね(笑)。

最初にキッチンで作り始めたので、制作道具は全てキッチン用品なんだそう。「もっと効率が上がる道具があると思うんですけど、まだ思いついてないのでこのまま使っています(笑)」と河内さん

 

──初めてオイルパステル作りに挑戦されて、いつ頃手応えを感じるものができましたか?

3年前に「BIG OIL PASTEL Baby」という小さいオイルパステルができた時でしょうか。最初に大きい「BIG OIL PASTEL」が完成したんです。でもなかなか売れなくて。自宅の在庫を混色して、小さいサイズを作ってみたら「めちゃくちゃ可愛い!」と思って。Instagramで紹介すると、外国の方からオーダーが入って、その方々の投稿についた店名のタグを介して、オーダーが増えていきました。

大きなパステルを溶かして誕生したので、商品名は、赤ちゃんの意味を込めて「BIG OIL PASTEL Baby」。300色が並ぶ売り場は圧巻!オンラインではセット販売のみですが、店頭では好きな色を選んで買うことができます。

 

──口コミで広がったんですね!この展開は予想していらっしゃいましたか?

予想してなかったので驚きました。立ち上げ当初は、画材屋で社長をしていた父や、姉弟に「こんなもん、誰が使うの?」と若干白い目で見られていたので(笑)、きっと家族も驚いたと思います。

 

──そうだったんですね!お店を立ち上げて、どんな時に喜びを感じますか?

購入した方が商品の感想をメッセージで送ってくださるときは嬉しいですね。安くはない価格ですし、海外なら送料もかかりますが、大切に使っていただけることが喜びです。

購入した方が、オイルパステルで描いた絵をInstagramに投稿する時に、お店のアカウントをタグ付してくださるんです。同じオイルパステルでも全く違う作品になっていて、どの作品も素敵だなと思って拝見しています。

今のようにみなさんが求めてくださるなら70、80歳になっても1日100本でもいいからオイルパステルを作って、オイルパステルを通して世界中のアーティストの方々と一生繋がっていたいです。

 

──さらに購入希望者が増えた時はどうしましょうか?

どうしましょうね。作り始めた当時は、例え欲しい方が日本で10人しかいなくても、世界をターゲットにしたら100人くらいはいて、その規模なら私一人くらいなら生活できるだろうと気楽に始めたんです。足りないくらいがちょうどいいのかもしれないと思って、たくさん作ることはあまり考えず、楽しく長く続けられたらと思います。

店舗での接客を手伝っている、義妹の妹の水頭さん。海外からのお客様と英語で会話を楽しんでいらっしゃいました。

 

──今制作している新色について教えてください

今は12月末発売予定の100色セット「100colors limited set」を制作中です。このシリーズは今回が10作目になりますが、毎回テーマを決めて、100色全部違う色で構成しています。12月末発売の新作のテーマは「warm」。あらゆる意味で温かみを感じる色をテーマにしています。

前作は、真夏に制作したのですが、オイルパステルを制作するキッチンの空調が全然効かなくて。猛暑でへばりそうな自分を奮い立たせるためにも「元気の出る色」をテーマに、明るい100色に仕上げました。宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』にインスピレーションを受けて、くすみがかった100色を作ったこともありました。完成したら、そのセットのテーマと、テーマに至った経緯をお伝えするメッセージを添えて、商品を発送しています。

 


人気色はグレー。様々な色を掛け合わせることができるので、色に幅があるのだそう。黄色は青を少し足すだけで黄緑になってしまうので、意外と幅が出ない色なんだとか。微妙な色の違いを観察するのも楽しい!

 

──制作前に、100色のラインナップを決めているんですか?

色は計画せず、その日の気分や感覚で色を作っています。完成した色を並べて、「こことここの間にこういう色があったら可愛いな」という風に、次に作る色を決めています。調色するときは、材料を計量したり、レシピに残していないので、どれも再現できない限定色です。

 

──100色作るのにどれぐらいの時間がかかりますか?

2ヶ月ほどかかりますね。最初は比較的順調に作れますが、70色目くらいでスランプになるんですよ(笑)。「100色まで辿り着けないわ」と思ったり、「今回、駄作かも…」と悩むんですが、ゴールに辿り着いて並べると「結構いいやん!」と思えます。おかげさまで過去に作った100色セットはどれも完売しました。悩みながら作った甲斐があったなと嬉しくなります。

 

こだわりあるお店が決め手で「富ヶ谷」に

 

──富ヶ谷にアトリエを立ち上げた経緯を教えてください

5年前に、生後2カ月の保護犬を引き取って飼い始めました。名前はクマです。犬と一緒に通える場所がよかったので、広いドッグランのある代々木公園付近で探して、知り合いの不動産屋さんに今の物件を紹介してもらいました。

それまで富ヶ谷には来たことがありませんでしたが、散策してみると、「HININE NOTE」や、「LITTLE NAP COFFEE ROASTERS」などのこだわりのある素敵なお店がいっぱいあって。「私がやろうとしてることと雰囲気が似てる!」と感じたので、この街に決めました。

クマちゃんは、河内さんと毎朝代々木公園のドッグランを散歩して、一緒にアトリエに出勤している。アトリエでの定位置は、オイルパステルが並ぶ台の下。

アトリエの入り口には、クマちゃんのイラストがたくさん飾られています。愛される看板犬!

 

──富ヶ谷でお気に入りのスポットはありますか?

ルヴァン」のパンがおいしくて、ランチによくいただいています。富ヶ谷にあるフレンチの「restaurant Goût(レストラン グゥ)」は、犬連れで入れるのでよく行きます。オーナーの方がご近所にお住まいで、犬友達としても仲良くさせていただいています。

 

──これから挑戦したいことがあれば教えてください

来年はアトリエの広さを活用して、イベントを開催したいと思っています。来年1月に芸術家の加藤泉さんの音楽イベントを企画準備中で、その後も近所のイラストレーターさんの展示などを行う予定です。ギャラリーをやってみたかったので、吹き抜けのあるショップや、階段の白い壁を活用して作品を飾りたいですね。


2階へと続く階段。白い壁に作品が飾られると普段のアトリエと違った雰囲気が味わえそうです。

 

──素敵なイベントになりそうですね。2階や庭など、広さのあるアトリエだからこそできるイベントですね!

そうなんです。イベントでは普段は使っていない2階も活用して、空間を作れたらいいなと思います。庭は普段からオイルパステルと大きい模造紙を準備していて、描き心地を自由に試していただけるんですよ!何も買わなくてもいいので、落書きだけでもしに来てもらえたら嬉しいです。犬の散歩の休憩場所に使っていただいてもいいですよ(笑)!来年末までの期間限定のアトリエですが、立ち退く最後に「あの場所、楽しかったね」と皆さんに言っていただけたら、それだけで嬉しいですね。

庭が物件選びの決め手になったそう。玄関を入るとすぐに庭へと入れる。

握り心地や描き心地を試せる。ブラックライトの中で光る蛍光色も。

 

気になる方は、ぜひ2025年内に!

取材中、Instagramでオイルパステルを知って、テルアビブから訪れたお客さんが。「どうしてこんなに滑らかなオイルパステルが作れるの?」というお客さんの質問に、英語で丁寧に応えていらっしゃる河内さんの姿が印象的でした。

オイルパステルは、本来絵を描くための道具ですが、河内さんのオイルパステルは、色も質感も河内さんの感性で作られた一つの作品。オイルパステルを手にした人がさらに表現を重ね、完成した作品は見る人に新たな感情を生み出します。国を超えて表現が連鎖していく様子は、希望に満ち溢れていて、改めて河内さんの挑戦の素晴らしさを感じました。

穏やかで優しくて、話すほどに惹き込まれるチャーミングな河内さんの人柄は、ワックスや顔料などの材料同様にオイルパステルに溶け出して、商品の魅力になっているのだなと感じました。これから河内さんがどんな色を生み出すのか、拝見するのが楽しみです。

気になる方は、ぜひアトリエを訪れてみてくださいね。運が良ければ、オイルパステルを作る現場を覗かせていただけるかも。訪れる際は、ぜひ来年末までに。でも、もし河内さんにお願いさせていただけるなら、再来年以降も富ヶ谷・代々木上原近くでアトリエを続けていただけますように…!

河内洋画材料店

【住所】〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷2丁目45‐3
【営業日時】金、土、日曜日 11:00-17:00 
【WEB】 HP /Instagram /Facebook

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