代々木上原の南側に位置する上原三丁目。小中学校や公園などが集まった閑静な住宅街にあるのが、今回ご紹介する話題のセレクトショップ「Roundabout(ラウンダバウト)」。
店舗があるのは、まもなく築50年を迎えるビンテージマンション。一見するとマンションの駐車場かと思う場所に、地下へと続く階段が延びていて、実はそこがRoundaboutの入口になっています。
元々吉祥寺にあった店舗が代々木上原に移転して7年目。セレクトされたアイテムの機能美に惚れ込む常連さんが多く、遠方から店を目指して足を運ぶ方もいるほど。キッチン用品から文房具、アパレル、アクセサリーなど、店頭に並ぶアイテムは多岐に渡りますが、全てはオーナーである小林和人さんが一人でセレクトしています。今回は、そんな小林さんの審美眼が生まれた背景やお店の経緯、代々木上原への思いなどを伺いました。
——国内外の生活用品をセレクトして取り扱う、今の仕事に就いたきっかけを教えてください
小林さん:物に興味が生まれた原体験は、中学生の時に図書館でルイジ・コラーニというインダストリアルデザイナーの本を手に取ったことでした。人間工学に基づいた流線型を多く使ったデザインが特徴なんですが、見た時に「家にあるものと全然違うな」と思ってびっくりしたんですよね。それがきっかけでデザインやデザイナーという職業に興味を持ち、多摩美術大学に入学してインテリアデザインを学びました。
卒業後は家具のデザインに関わりたいと思ったんですが、やりたい事と就職先が自分の中でなかなか紐付けができなくて。結局二社しか受けなかったんですよね。そのうち一社は憧れの会社を記念受験して(笑)。そんな感覚だから、就職先が決まらないまま大学を卒業しました。卒業したけれど、自分の場を持つことへの憧れはあったので、同じように就職しなかった美大仲間と夜な夜な集まっては「何かやりたいね」と話していましたね。当時は今のようにSNSもなかったので、個人で発信するハードルが高かったんです。そんな状況で自分たちが発信する手段を考えた時に、それは店なんじゃないかと。
具体的な動きは決まらないまま解散する日々を繰り返していたんですけど、ある時仲間が吉祥寺に、取り壊し間近で一週間だけ借りられる物件を見つけてきて。そこで一週間限定で店をやることになったんです。それが「Roundabout」の始まりでした。
Roundaboutという店名もその時に決めて、大学の工房を借りて自分たちでシルクスクリーンでTシャツを刷ったり、アメリカンスクールのバザーで海外の中古の生活用品を仕入れたりして準備しましたね。店というよりもガレージセールのイメージに近かったかもしれません。やり終わると「店って面白い!」とそれなりの手応えがあったんですよね。それで一、二カ月の準備期間を経て、1999年に同じ物件で本格的に店を始めました。
——当時から「Roundabout」という店名だったんですね。店名にはどんな意味が込められているんですか?
小林さん:店をイメージした時に、”さまざまな背景を持つ物や人が行き交う場所”にしたいと思っていたので、環状交差点を意味するRoundaboutを仲間に提案して決まりました。交差点には、国産車も海外の車も問わず、またバイクも大型トラックも走るでしょうし、新車も走ればビンテージカーも走る。店もそんなニュートラルな存在になれたらなと思ったんです。
「round」と「about」という馴染みのある二つの言葉が重なって聞き慣れない響きになるのも魅力的でしたし、今でもその名前にしてよかったなと思いますね。
——その後、どういう経緯で吉祥寺から代々木上原に移転したんですか?
小林さん:一週間限定で開店して以降、吉祥寺の物件は運良く取り壊しが延期になり、オーナーさんの好意もあってそのまま借り続けることができたんです。でも2016年に取り壊しが決まったので、移転先を探し始めました。吉祥寺の物件は、元々キャバレーだったビルの二階で、赤い絨毯の階段を登ると開けた空間が広がる、かなり趣のある建物だったんです。そんな店の空気感を気に入ってくださったお客さんをがっかりさせたくなくて、建物の雰囲気を重んじたなかでの店舗探しはかなり難航しましたね。
最初は吉祥寺近辺で探すもなかなか見つからず、範囲をもう少し広く考え直した時に、ふと代々木上原が気になりました。20年ほど前の結婚したての時に東北沢に住んでいたので、この辺りは馴染みある懐かしいエリアだったんですよね。探し始めたら、たまたま今の物件を見つけて。地下に広がる天高な空間、廃墟っぽい雰囲気が気に入って、移転を決めました。
吉祥寺の店舗は窓が多かったので壁面にディスプレイできなかったんですけど、この店舗は倉庫のような雰囲気なので壁に木箱を積み上げたり、空間の性格にあった陳列を考えるのが楽しいですね。
店舗の場所は変わりましたが、根底にある考えや、店主が一人で物を選ぶ体制に変化はないので、商品のラインナップはそこまで変わっていないと思います。軍の放出品やステンレスのバットなどの厨房道具など、立ち上げの時からずっと変わらず扱い続けているアイテムもありますよ。
——開店時からのロングセラー商品とは凄いですね!小林さんがアイテムをセレクトする際にこだわっている点は何ですか?
小林さん:使い続けることで経年変化の表情が増す品物を紹介したいですね。よく「デニムを育てる」と言ったりしますよね。そんな「育てていける道具」を選んでいます。また、著名なデザイナーがデザインした物でも、アノニマスな物でも等価で扱いたいと考えています。
基本的に、作り手の作為があまり感じられない物に惹かれますね。例えば、軍の放出品や業務用の製品なんかもそうですけど、そこに作り手の作為が介在する余地がない分、物としての在り方の純度が高まるのだと思います。
ただ、セレクトに変化も生まれてきました。Roundaboutではどこかざっくりした素っ気ない良さを持った物を選んでいたんですけど、徐々に手仕事の細やかさが光る物や、機能だけじゃない物にも惹かれ始めたんですよね。頭の引き出しを二つに分けたいなと思って、2008年に二店舗目となる「OUTBOUND (アウトバウンド)」を吉祥寺にオープンしました。
Roundaboutは物の具体的な「機能」に軸を置いているとしたら、OUTBOUNDは機能以外の情緒的な反応をもたらしてくれる「作用」に焦点を当てた展開をしているといえるかもしれません。
そんなRoundaboutとOUTBOUNDという、2つの場所のコントラストを楽しんでもらえたら。代々木上原と吉祥寺は30分ほどで移動できるので、同じ日にはしごして、違いを体験してもらえたら嬉しいです。
——最後に、今後お店を通して実現したいことがあればぜひ教えてください
小林さん:Roundaboutでは、「探す楽しみ」に重きを置いた、物がひしめき合う陳列をしていますが、今後はこの物件が持つゆったりした空間の可能性を引き出していきたいですね。緩急をつけたディスプレイなど、余白を生かす実験をして、いろいろ発見できるといいなと思っています。
一方で、スタッフを信頼してディスプレイを任せることも重要だと考え、少しずつその部分を渡していっています。
また最近は、ご縁があって富ヶ谷のセレクトショップ「LOST AND FOUND」にもセレクターとして関わっています。そんな繋がりを楽しみながら、上原や西原、幡ヶ谷、そして富ヶ谷といったこのエリア一帯の盛り上がりに僅かながら寄与できれば嬉しいです。この辺りは個性的なお店が充実しているんですけど、立地的にやや離れていたりもするので、散策してもらいやすいようにマップなどを作れたらなと思ったりしていますね。
並ぶ商品のセレクト、五感に訴えるディスプレイ、店内に漂う香りや流れる音楽など、Roundaboutは小林さんの世界観にどっぷり浸れる空間。気になった方はぜひお店を目指してみてください。遠方で現地に足を運べない方もがっかりなさらず。Roundaboutオンラインサイトでは、店頭同様のラインナップをチェックできますよ。店舗のディスプレイ同様、サイト内の空気感を纏った商品写真もとても素敵。眺めるだけで豊かな気持ちになれます。使い育てることで人生を共に歩めるアイテムをぜひ見つけてみてくださいね。
Roundabout
【住所】〒151-0064 東京都渋谷区上原3-7−12 B1
【営業時間】12:00〜19:00 (火曜定休)
【TEL】03-6407-8892
【WEB】 HP / Instagram
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