出会いと偶然から生まれた、奇跡のカレー
その街を訪れる理由になる、たったひとつの何か。
好きなひとがいること。おいしいごはんがあること。面白い話がきけること。新しい何かに出会えること。
そんな何かが、たったひとつでもあればいい。
「あのお店の『アレ』」があるから、代々木上原に行きたい、暮らしたい!と思える名物をピンポイントでご紹介する連載企画第28弾。
今回は、バー「サウダーヂな東京」のカレーにまつわるお話をお届けします。
代々木上原駅の南口を出て小道へ入り、坂道をすこしあがった一角。眼鏡屋さんの「igc」と同じ建物「ロイヤルテラス」2Fの1室に「サウダーヂな東京」はあります。(MAP)
看板などはありませんが、202のポストや扉に「サウダーヂな東京」とさりげなく掲げられています。
ドアをあけると、アンティークの家具や古くて大きなスピーカーが並ぶ、外観からは想像のつかない空間がひろがっています。
出迎えてくれたのは、「サウダーヂな東京」のマスター・ボボさん。
2年前にこのお店をオープンするまでは、代々木VILLAGE内の「代々木カリー」で店長を務めていた方です。
サウダーヂなチキンカレー ¥1,000
やたらと美味しいバーのカレー、誕生秘話。
「これがね、偶然できちゃったんですよ」
元カレー屋さんの店長!という経歴からすると美味しいカレーを生み出すのは必然かとおもいきや、開口一番「ほんとうに、たまたま奇跡的に美味しいのができたんです」とボボさん。
「お店をオープンするにあたって、いくつかフードメニューがあったほうがいいだろうと思って過去のメモや資料を漁っていたら、ひょこっと手書きのメモが出てきたんです。代々木カリー時代に人から教えてもらっていたカレーのレシピで、気になってメモしていたものでした。それをもとに、アレンジを加えてみたら自分でもびっくりするぐらいの美味しいカレーができてしまったんです」
以来、2年以上にわたり人気メニューとして愛され続けているカレー。「ジャンルでいうと、南インドのチキンカレーです。ホールスパイスを油でじっくり炒めて香りを移して、たまねぎやにんにく、生姜を入れて炒めて、鶏肉とパウダースパイスをいれて、お水とお出汁、最後にココナッツミルクを入れて仕上げる。一般的なインドカレーの作り方で、あまり特別なことはしていないです」
ひとくち食べると、スパイスの豊かな香りと、野菜やお出汁の旨味、ココナッツミルクのやさしさが口に広がります。スパイスも多くの種類が入っているようですが、辛さよりも繊細な旨味や香りが際立っていて、調和具合に目を丸めていると「気づかれる方も多いですが、生姜が多めに入っているんです」とボボさん。
「これだけ美味しい美味しいと自分で言っておきながら恥ずかしいですが、木曜日限定でお店に立ってもらっている“マジョラムカレー”がとんでもなく美味しいと有名になりつつあって。毎日マジョラムカレーやったほうがいいんじゃないかって言われているぐらいなんです(笑)」
間借りカレー界でも名を馳せているマジョラムカレー
居心地の良さは、どこからきているか。
ひとつのお店のなかで局地的にカレー激戦地となっているわけですが、店内を見渡すと、どこに目を向けても、なんだか良い感じの「サウダーヂな東京」。
ベランダやカウンターなど、要所要所に季節の花が飾られていて、本棚にある本も気になるし、椅子やテーブル、照明も、これどこのやつですか!と聞きたくなるものばかり。
スピーカーは、JBLの1972年製
「内装や、テーブルや椅子などのインテリアはすべて、岡山時代からの友人に手がけてもらっているんです」
「僕自身はそういったセンスは全然なくて、これまでのつながりが人との出会いがこの空間をつくっているんだと思います」とボボさん。
ボボさんは大学を卒業後、岡山の名店「サウダーヂな夜」で9年にわたり店長を務め、そこでの経験がお店の楽しさに目覚める原点だったといいます。
2016年のリニューアルで巨大スピーカーが設置されるなど進化を続ける「サウダーヂな夜」。2000年のオープン以来、音楽好きが夜な夜な集まるスポットとして岡山のカルチャーを育んでいる。(写真は岡山の大人な夜の社交場 サウダーヂな夜より)
「もともと、岡山を出ようとは思っていなかったんです。ただ、『サウダーヂな夜』でやるだけのことをやったかな、というタイミングで、『サラヴァ東京』というライブハウスの立ち上げで店長をやらないかとお声がけいただいて、東京に出てきました」
自身のルーツとなった「サウダーヂな夜」と「サラヴァ東京」。そのふたつへリスペクトを込めて、ふたつの店名を組み合わせて「サウダーヂな東京」に。
「ライブハウスをやめたあとは、近くでいつも飲んでるバーが、カレー屋さんをだすっていう話で。手伝ってほしいという話があってカレー屋さんになって、独立しようと思ったときにはこの物件がすぐに見つかって、あまりに良いところだったので即決しました」
「ライブハウスからの話がこなかったら、ずっと岡山にいたと思います。すべてがつながって、生きてきてるような気がするんですよね」
国内外から厳選したクラフトジンやラムもおすすめ
「代々木上原でお店をひらいたのは、この物件との出会いがきっかけ。もともと飲み歩いていたエリアではあるのですが、駅からこれだけ近くて、ちょっと見つけにくい感じがいいなと思いました。夜もいいですけど、夕方の日が差し込むときの空気も気に入っています」
喫煙スペースでもあるベランダ。夕方16時からのオープンなので、夕暮れどきに黄昏れるのも乙な過ごし方
「岡山で過ごして、東京にきて、代々木上原でお店をひらいて。どこか外の目線でこのまちを見つめている部分はあります。上原は、岡山と同じくローカルな場所だと思います」
インタビューも常に楽しそうに受け答えしてくれるボボさんは「とにかく、新しく人と出会うのが好き」だといいます。「東京のこの場所でお店を構えている限りは、常に人と出会うことができます。それが楽しくて。こんな性格なので旅も好きだと思うのですが、今はここにいて人を迎え入れる立場ですね」
このボボさんの感覚をきいて、京都のとある老舗喫茶店で何十年もカウンターに立ち続けているマスターの言葉を思い出しました。寡黙なマスターに、日々どんなことを感じ、考えているのかをきくと「毎日、映画をみているようなものですよ。全く飽きません」と答えてくれたのです。
「それ、かっこいいですね。僕が言ったことにしてもいいですか?」と笑うボボさん。「ただ僕はもうちょっとおせっかいで、その映画のなかに自分も出演している気持ちかもしれません」。
編集後記
なぜ美味しいカレーができるのか。ボボさんは偶然だといっていましたが、ここに至るまでのお話や、店名に象徴されるように、これまでの出会いや縁を大切にする人としての姿勢が、料理や空間ににじみ出ているように思いました。
バーというといちばんはじめは入りにくさを感じてしまいますが、ボボさんのお店は「入り口がシャイなだけ」とのことで、一歩入れば名脇役?なボボさんがそこにいて、新しい物語がはじまっていきます。
サウダーヂな東京
【住所】東京都渋谷区上原 1-32-5 ロイヤルテラス202
【営業時間】16:00〜0:00
【定休日】不定休
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