単なる「消費」で終わらない、アートの在り方とは何だろう?
Tiktokやインスタリール、Youtubeショート etc…。数秒単位でコンテンツが消費されていくファストなご時世。アートやコンテンツが担う役割も、日々変容しています。
瞬発的なバズも数カ月後には忘れ去られる一方で、誰かの心に深く刺さるものが、膨大な情報量の海に沈んだままになっていたり…
ただ、代々木上原で超地域特化型の活動をしていると、数キロ範囲の輪で起きた事象ながら「アートやコンテンツの在り方」において希望と刺激をもらえる物事にたびたび出会うことができます。
今回の記事では、絶対的な答え!とはいわないまでも、ヒントになるような事例を3つご紹介します。
<目次>
CASE STUDY1:ひとりの「好き」から実現した、ニック・ダーレン 日本初個展
CASE STUDY2:アートを日常へ。ファイヤーキングカフェが先進的な事例で在り続ける理由
CASE STUDY3:Tiktokとは対極にあるアートフィルムが、グローバルメディアへ掲載
CASE STUDY1:ひとりの「好き」から実現した、ニック・ダーレン 日本初個展
©gallery commune
ひとつめのケーススタディは、幡ヶ谷の「gallery commune」で開催されたNick Dahlen(ニック・ダーレン)の日本初個展「Student of Life」。
©gallery commune
ニック・ダーレンはアメリカ・ミネアポリスを拠点に活動するアーティスト。
Rhythm SectionやMusic From Memoryなどのレーベル、Dan Kye(Jordan Rakeiの別名)、Ivan Ave、Quiet Dawnなどのアートワークを手掛けていることでも注目を集めています。
ニック・ダーレン作品 | Sammy, 2022
©gallery commune
ニック・ダーレン作品 | Tomato, 2022
©gallery commune
©gallery commune
2022年10月8日〜30日にわたり行われた個展「Student of Life」ではニック本人が在廊した初日をはじめ、会場は常に熱気に包まれていました。
ギャラリーやアートの根源的な価値(あと仕事や生活拠点の近場に、最高なギャラリーがあることの有り難さ)をあらためて体感させてくれたニック・ダーレンの初個展。実現するまでのプロセスも興味深かったので、キュレーションを手掛けた、TDMS.incのぺ・ヨンボさんにショートインタビューを行いました。
きっかけは、2018年に買ったレコードのジャケット。
―ニック・ダーレンの日本初個展のキュレーション(招聘)を行ったのがヨンボさんとお伺いしました。どのような経緯で実現したのでしょうか?
会社とは全く別の動きになるのですが、2018年に買ったレコードで好きなジャケットがあって。あまりに良いので、アートワークを手掛けたペインターを調べて。それがニック・ダーレンでした。インスタでも繋がって、個人的に作品を買ったりしていたんです。
―自分にも思い当たる節があるような、親近感のあるエピソードですね。
オフィスや自宅にも作品があったり、名古屋でやっているお店(Vinofonica)用に作品をオーダーしたりしていて。
ひとりのファンとして応援しているなかで、この数年間で有名なミュージシャンのジャケットもやるようになって、それがいい作品ばかりなので単純に嬉しいなーと思いつつ。
ニック・ダーレンの個展は東京「gallery commune」に続けて名古屋の「Vinofonica」でも開催。こちらも大盛況で幕を閉じた。
インスタでメッセージのやりとりをしているなかで「いつか東京に行けたら」という話をしていて。おいでよ、と常にウェルカムな気持ちではいましたが交通費もかかるしコロナ禍もあってハードルが高い。それならいっそのこと、個展をやったらどうかな?と。
キュレーション的なことはやったこともないけれど、幡ヶ谷の「gallery commune」とは絵を買ったり交流もあったので、ちょっと相談してみたんです。
こういうアーティストがいるのだけど、どう?って。そうしたら、以前から「gallery commune」側もニックの事を知っていて、ニックもSNSを通してお互いに知っている間柄だったことから、一気に事が動き出して個展の開催が決まりました。なので「gallery commune」があったからこそ実現できたようなものです。
「ただ好きな人を呼びたかっただけ」。個々のフレンドシップと場の存在で実現した初個展。
―実際に開催した所感としては、いかがでしたか?
ニックともはじめて直接会うことができてより一層仲良くなったし、日本ですごく知名度と人気がでてきたタイミングだったこともあって、知ってくれている方も多かったので東京も名古屋も賑わってよかったです。いちど見たら忘れられない印象的な作風で、何より彼自身の作品の力と、いいレコードのジャケットをいくつも手掛けていることで自分と同じような嗜好を持つ方が多く足を運んでくださったのは嬉しかったですね。
―前回のインタビューで「すべてのカルチャーは繋がっている」とお話されていたことや、レコードがきっかけだったり全部リンクしていて勝手に興奮しています。
動機としては「ただ自分が好きな人を呼びたかった」ってだけで、極めて単純なものですが、ニック自身も音楽から大きな影響を受けていたりと「つながっている」「枠にとらわれてない」ところに惹かれている部分がありますね。
あとは(ニック・ダーレンがジャケットを手掛けた)音源がレコードになっていなければ出会えてもいないし、出会いがレコードだったからこそ好きになった部分も大きいです。
―アートとビジネスの両立って難しいな、早いスピードで消費されてしまう一方だな、と小難しいことを考えていたのですが、あらためてレコードのフォーマットとしての秀逸さも感じました。
たしかに、アートに出会うきっかけとして、レコードはずっと機能し続けているし、作品のフォーマットとしてこれ以上のものは無さそうですよね。
特に意識はしていなかったですが、Qratesをやる意義にも繋がっています。ただ今回の展示はほんとに個人的な動きで自分は大したことはしていません。「gallery commune」をはじめ周囲の協力のおかげで出来たこと、というのは最後に強調させてください!(笑) 「gallery commune」の展示は毎回すばらしいものが多いので、ぜひみなさんも日常的に足を運んでみてほしいです。
余談:Qratesのレコードカッティングスタジオが近日オープン!?
ヨンボさんといえば世界初のレコード制作サービス「Qrates(クレイツ)」を開発・運営していて、その動向も気になるところ。上原人物名鑑でインタビューさせていただいたのが2017年なので、実に5年ぶりのご登場でした。近況についてもお伺いしていたので、気になる余談としてお届けします。
―今回5年ぶりということで、最後にQratesの近況も教えていただいて良いでしょうか?
あのときにお話していたレコードのカッティングスタジオを初台に近々オープンする予定で、構想がようやく形になる大詰め段階です。つくるレコードの数は年間で400-500タイトルほどまで伸びていて、累計ユーザー数はもうすぐ20万人に到達します。
―利用しているアーティストやユーザーの大半は海外の方でしょうか?
そうですね、利用者の97%がグローバルなのですが、実は日本語バージョンのリリースも近日予定しているので、国内の方々にも使ってもらいやすくなると思います。
―めちゃくちゃ楽しみです。カッティングスタジオと日本語verのリリースの件はまたあらためてとりあげさせてください。
ぜひぜひ!
<関連リンク>
次項のケーススタディでは、代々木上原のアイコン的なカフェ、ファイヤーキングカフェの阿部さんの事例をご紹介します。
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