「家族のふるまい」を考える家具屋さんがある
「去年できたばかりの家具屋さんが代々木上原でポップアップショップをやるらしい」
「何やら、洗車の技術で明治〜大正時代くらいの家具を磨いて、リペアしてるとか。おもしろそうだから、ちょっと行ってみない?」
アンティークの家具・雑貨を扱うブランド〈ICCA〉のことを聞いたのは、『AL』編集長からのこんなメッセージがきっかけでした。
WEBサイトやInstagramを眺めてみると、佇まいが良い感じ。明治〜昭和初期のアンティーク家具、というモノ自体への興味もさることながら、ブランドのコンセプトが、何やらロマンチックなのです。
ICCAは、暮らしを共にする大切な人たちへの思いやりの言葉・立ち振る舞いが、自然と生まれるようなプロダクトやシーンを提案するブランドです。
「ICCA」は、漢字にすると「一花」と書きます。
例えば、引っ越したばかりのよそよそしい部屋。一輪の花を置いた瞬間に親密な空間に感じるかのように、家族の間に「一花」を添えてゆくようなブランドでありたいという想いが込められています。
〜ICCA公式サイトより〜
「思いやりの言葉・立ち振る舞い」ってなかなか目に見えにくいものだと思うのですが、そんな「行為」や「言葉」を生み出す家具ってどんなものだろう?
ということで、3月某日。代々木上原、井の頭通り沿いにある「Studio TERRANOVA」が運営する古民家を改装したスペース「TERRANOVA House」で開催されたPOP UP SHOPに行ってきました。
白を貴重とした空間に、心地よく家具が並んでいます。
会場に入ってすぐに、このキッズデスクに心奪われてしまいました。椅子とお揃いの、この脚の形!
他の家具も、どれを眺めても、なんというか、懐かしいのに新しい。古さを感じさせません。
事前に聞いていた、「明治〜昭和初期の家具を、洗車の技術で”磨いている”」からでしょうか。
〈ICCA〉の家具を手がけているのが、このお三方。
左から、家具職人の岡本さん。代表の酒井さん。デザイナーの石崎さんです。
家具をひと目見て、さらに気になることだらけ!ということで、代表の酒井さんと、デザイナーの石崎さんにお話を聞きました。
和洋折衷の狭間に生まれた、グッドデザイン
<Profile>
酒井立朗(写真右):〈ICCA〉の代表。「家族」をテーマにしたプロジェクトや事業を行う。ブランド運営全般を担当。
石崎圭一(写真左):アートディレクター/デザイナー。フードやアパレル等数々のブランドのアートディレクションを手がける傍ら、〈ICCA〉ではデザイン、コピーライティング、その他色々を担当。
ーこんにちは。はじめて〈ICCA〉の家具を見させていただきまして、グッときました。
酒井:ありがとうございます。
ーなぜ明治〜昭和初期時代の家具に注目したのか。きっかけを教えてください。
酒井:あるとき、和菓子みたいな形をしたすりガラスのペンダントライトをアンティークショップで見つけて、ビビッとときたんです。調べてみると、それは大正時代につくられた日本製のものでした。その時代の周辺の家具をほかにも探してみると、ことごとくしっくりきたんですよね。
酒井:江戸時代までの家具は、わりと角ばったようなゴツめのものが多いのですが、明治の時代がすすむにつれて西洋の文化が受け入れられるようになって、なんとなくモダンな要素が和家具に取り入れられてきた時期なんです。まったく古臭くなくて、現代の暮らしによくあうデザインとして完成されている。いわゆる和というよりは、和洋折衷ですね。
石崎:その時代の家具は、コンパクトで日本の住宅事情にフィットしてますよね。海外の家具だと、広い部屋・高い天井にあわせて設計されてるから、日本の家に入るとやっぱりちょっと大きい。
酒井:そうですね。昭和初期までは座卓で暮らしてるひとたちが多かった時代だとおもうので、比較的低めのものが多いです。都市部の住宅は、天井も決して高くはないので、アパートやマンションの部屋にも馴染みは良いかなと思います。
ーたしかに。しっくりくる絶妙なサイズ感だなと思いました。
石崎:福生のアメリカ人住宅ってありますよね。日本の大工さんが、アメリカのデザイン・設計で建てた住宅。
ー居住希望者が後を絶たない、人気の住宅街ですよね。
石崎:ええ。何がいいかというと、日本の文化や大工さんの技術力と、アメリカのデザインが融合され、日本でもアメリカでもないもう一つの新しい形ができているところなんです。僕たちがグッとくる和洋折衷感って、そういう部分に通じるところがあるのかなと思います。
車と家具。磨く技術は一緒?
ー〈ICCA〉では、アンティークをただ買い付けるだけでなく、洗車の技術を使って「磨いて」いると聞きました。
酒井:そうなんです。父が車の洗車業をやっているんですが、実は車の洗車と木や家具を洗ったり研磨する技術は極めて類似してるんです。洗車や車の磨きに関して言えば、どうしたら綺麗になるのか、色がよく出るのかなどのスキルや知見を熟練した洗車職人さんたちから十二分におしえていただいたんです。それを家具のリペアに活かしています。
石崎:〈ICCA〉は僕と酒井くんの手探りでスタートしたんですが、はじめから「磨き」のクオリティだけはめちゃくちゃ高かったよね。
酒井:うちの兄も職人で、(洗車に関する)商品開発も自分でやったりと高い技術を持っているのですが、最初試しに家具を磨いてもらったら、ありえないくらい綺麗になったんです。
石崎:もはや新品かってくらいピカピカになったので、あ、ちょっときれいすぎる!って(笑)。
ー逆にアンティーク感がなくなっちゃうと(笑)。
酒井:ほど良いところまでで大丈夫ー!って。
ーそんなにすごいんですね。そもそも洗車の技術が木や家具を扱えることが意外でした。
酒井:たしか、木を磨いたりする道具を、車を磨くための道具として応用したっていうルーツがあるみたいんです。機械の先にやすりをつけて、ウィーンと研磨していくものを、接触する素材をソフトにして、車を塗装したり洗ったりするようになっていったとか。
ーなるほど。車ができたての時代って、家や家具づくりの道具を、これ、洗車に使えるんじゃない?ってやってそうです。
石崎:余談ですけど、〈ICCA〉は専用の倉庫をまだ持ってなくて、酒井家のガレージにあるめっちゃアメリカンな車と一緒に並んでストックしてあります。
ーストック状況も和洋折衷なわけですね。
酒井:はやく専用の倉庫は持ちたいですどね(笑)。
〈ICCA〉の家具は、「磨き」に加えて、真鍮のキャスターをつけたり、もとの魅力を最大限に活かしつつ現代の暮らしにさらにフィットするようカスタマイズを加えているそう。塗料には、黒いお城の城壁に使われる「渋柿」(防虫と光沢効果がある)を使用するなどのこだわりも。最終の仕上げは、長野を拠点にする家具職人・岡本さんが行うのだとか。
ドン底まで落ち込んでいても、「存在」を肯定してくれる家族がいる
ー〈ICCA〉は「家族」をテーマにしているというところも印象的でした。
酒井:もともと僕のライフテーマが「家族」なんです。
ーライフテーマが、家族、ですか。
酒井:ありがちな話で恐縮なのですが、新卒で入社したリクルートを1ヶ月で辞めて自分で会社を立ち上げて、イキがっていた時期があって。
酒井:当時、自分は仕事ができる人間だと思い込んで、いろんなクライアントのブランディングやWEBの制作をやっていたのですが、そのときに、かなり大きなプロジェクトで大失敗をしてしまいました。マネージャーをやっていて、クライアントや会社の仲間からも、お前とはもう一緒に仕事をしたくない、と。その頃の僕の世界からすると、関わっているほぼすべての人から、拒絶されてしまいました。
ーそれはつらいです。
酒井:ものすごく落ち込んで、生きる気力を失いかけました。鼻高々になっていたのが、ボキボキにおられて、無気力状態。そのときに、唯一家族だけは、僕の目からすると、味方でいつづけてくれました。
当たり前の話かもしれないですけど、会社とかって、バリューを発揮しないと、存在価値が無いに等しいですよね。何かしらの価値・利益を生むための組織ですから。
家族って、ノーバリューでOKというか、存在してくれるだけで、有り難いというスタンスじゃないですか。
そんなことにも気づかずに生きてきていたのですが、そのときに、家族の大切さを身をもって実感して。家族という自分のコアな居場所みたいなのがあるから、新しい挑戦ができたりとか、人にやさしくできるんだなってのが、すごく大きな気付きでした。
いい家族のつながりが、いい人をつくる
酒井:家族じゃなくても、自分の真ん中にあるコミュニティが誰しもあるとおもうんです。友達とかでも。そのつながりをもっと大事にして、もっと心が安定して豊かな人がふえたらいいなっていうのを、その頃から考えているんです。
酒井:そこから、何ができるのかなーってずっと考え続ける中で、アンティーク家具を扱うことを思い立って。別のプロジェクトでご一緒していた石崎さんも、アンティークが好きだということを話していたことがあったので、すぐに連絡をして。
石崎:酒井くんから、今日は、仕事のミーティングじゃないんですよっていつも違うトーンで。おお、なになに?って。
酒井:大事なご相談があるんですと。
石崎:話聞いてすぐに、うん、やろやろーっていって。その2ヶ月後には、ド素人たちがプロたちのなかに混ざって、買い付けに参加したりして。
酒井:競りのなかで、手を挙げて価格を言うんですけど、最初石崎さんの声が全然届いてなかったりして(笑)。
石崎:3000円!とかって言っても声が通らないとスルーされちゃう。あれはちょっとかっこ悪かった(笑)。そういうところからでしたね。
「振る舞いを演出する」家具って?
酒井:ただ実際、家族がどうのこうの言われても、ちょっと暑苦しいところがあるじゃないですか。
ーいろいろな家族の形がありますしね。
酒井:綺麗事で済まされないというか。いつも喧嘩ばっかりして、いいときなんて一瞬しかないよ、っていう部分もある。
ー大切な存在だけど、かえって素直になれなかったりします。
酒井:そこで〈ICCA〉は、振る舞いを演出することを目指しているんです。
ーWEBサイトでみて、気になっていました。「言葉」や「振る舞い」をつくるプロダクト。
酒井:例えば、「セカンドキッチン」っていうコンセプトがあるんですけど、旦那さんが珈琲好きだったら、豆とかいろいろ集めるじゃないですか。それを収納できる棚があって、小さなカウンターのような役割を果たして、そこでコーヒーを奥さんや家族のために淹れる、といったシーンを想定してて。
酒井:自分が好きだから自然とやりたくなって、奥さんからしてもコーヒーをいれてもらえるのがうれしい、みたいな。そういうふるまいが自然と生まれて、いい家族のつながりが生まれるとうれしいなーというところで、日夜考えています。
↑〈ICCA〉WEBサイト内のコラム
石崎:〈ICCA〉のモノがあったから「結果そうなったね」っていうのが狙いたいところなんです。コーヒーが好きで、ただたくさん豆を買ったり道具を揃えても棚にしまってるだけだと奥さんから「そんなことばっかりにお金つかってないで」といわれたりする。
それを、目の前でコーヒーを入れてあげると、奥さんもまんざらでもなくなるみたいな。お互いに、結果、いい感じになるっていうのが狙いで。試行錯誤しているところですね。
〈ICCA〉 WEBサイトの「SECOND KITCHEN」商品ページより。道具を収納し、小さなキッチンとして機能するためのカスタマイズが加えられている。
モノの、「終わり」をはじまりに変える。
ー〈ICCA〉がやっているのは、言葉でいうとアンティーク家具のリペア、になるのでしょうか。
酒井:リペアと、正確に言うとリメイクですかね?
石崎:まだひとことでいえないですけど、「始末」って言葉があるじゃないですか。日本のひとって、すべてのものを最後まで使い切る文化があって。たとえばクジラ漁の場合、お肉だけでなく髭も皮も脂も全部使い切る。
石崎:僕らがやっているのは、「良く終わる始末」ではなく「別の新しい何かを創りだす始末」なのかなって。いちど役目がおわったものに、デザイン(想い)を付加して、もういちど新しい命を宿して、生活の中に戻してあげる。もういちど人に、大切に使われるのはいいなぁって。
酒井:いい表現ですね。始末、かぁ。
石崎:こないだNHKの朝ドラのなかで出てきた言葉なんだよね(笑)
代々木上原を選んだ理由。
ー最後に、今回のポップアップショップを行うにあたって、代々木上原を選んだ理由を教えていただけますか?
酒井:代々木上原の人はセンスがよくて、いい個人店もいっぱいある。〈ICCA〉としては、そういった街でどんな反応があるのかを知りたくて。まだはじまったばかりのブランドなのですが、上原に暮らしているような方々に「いいね」と思ってもらえると嬉しいなーと。
石崎:上原って、ちょうどいい感じがします。広尾ほどスノッブすぎないし、恵比寿や自由が丘ほど忙しすぎないし、世田谷ほど、落ち着きすぎでもない。そのあたりの絶妙なバランス感があると思います。
【トークイベント内容、全文公開中!】
この日、ポップアップショップの開催を記念して、特別にトークイベントも行われました。講師は、料理研究家であり、華道家、日本文化の伝道師として有名な松本栄文先生。
『後世に残したい日本の伝統的な暮らし』をテーマにお話をしていただきました。
内容をすこしだけ抜粋すると…
・「グッチのデザインは、東京の牧場にあった風景がベースになっている」
・「和食や和服に使われる”和”の本当の価値は、”異なる文化を否定せずに受け入れる”こと」
・「日本人は、狩猟民族でも農耕民族でもない◯◯◯◯民族」
・「花粉症が増えたのは、あるモノを食べなくなったから」
・「”負ける”建築が、1輪の花の価値を気づかせてくれる」
などなど、このお話だけで1冊の本になるのではないか、という内容になっています。
ICCAのオフィシャルサイトに全文がUPされているので、ぜひ、こちらもあわせて読んでみてください。
>>『後世に残したい日本の伝統的な暮らし』全文レポート
特にパート3の「侘び寂び」のくだりは必読です!(銀閣寺をつくった足利義政さんの話なのですが、〈ICCA〉の話と見事に重なっていて、松本先生すげー!となります)
ICCA
WEBサイト:http://icca-life.com/
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