かつてない、アダルトオリエンテッド(大人目線)なレコードブティック
〈YUGE(ユージュ)〉の弓削匠さんが、先月代々木上原で新しいレコードブティック〈Adult Oriented Records〉をオープン!開店してからまだ1ヶ月と経っていないですが、すでに「やばいレコードショップができた」と各所で話題になっております。
まず開店初日の様子がコチラ。
大行列です。なぜこうなったかというと、お店のオープンとあわせて、同名のレコードレーベルを始動し、ここでしか買えない限定音源をリリースしたからなのです!
一十三十一×PUNPEE×beef fantasyの限定音源をリリース&即完!
アートワークを手がけたのは、気鋭のイラストレーター・金安亮さん。ここでしか手に入らない音源、ということで、オープン時には50-60名ほどの行列ができたそう。
それだけではありません。
ロンドン発のナウなシティ・ポップ・バンド 「PREP」からご指名!
ファーストEP『Futures』がリリース後瞬く間に注目を集め、spotifyで700万以上の再生を記録するなど世界的にナウ・ブレイキングなロンドンの4人組シティ・ポップ・バンド『PREP』から直接指名で「レコードを置かせてくれませんか」と依頼があったそうです。オープンしてまだ2週間も経っていないのに!
著名な音楽関係者の私物レコードが買えるコーナーもある!
FPMこと田中さんのインスタで知ったのですが「Adult Oriented Records」では、7人の著名音楽関係者の私物レコードが買える棚が設置されている、とのことです。ミュージックをプロバイドする方々はこちらの方々。
田中知之(FPM)
松田chabe岳ニ
青野賢一(BEAMS RECORDS)
クニモンド瀧口(流線形)
大島忠智(IDÉE )
高城晶平(cero)
水原佑果
、、と、オープンからまだ間もないながら、「ただならぬレコード屋」であることが伝わる「Adult Oriented Records」。そんなんできひんやん普通!というわけで、一体どのようなレコード屋さんなのか、仕掛け人である弓削匠さんにお話を伺いました。
弓削匠(ゆげ たくみ):ファッションデザイナー。〈YUGE(ユージュ)〉ディレクター。超音楽マニアとしても知られ、土岐麻子や一十三十一等のアートディレクション、プロデュースも行う。山下達郎への愛の深さゆえに時折“ユゲタツ”としてもイベントに出没。草野球チームにも所属しており、攻守にわたり活躍中
音楽のことなら、いくらでも語れる。
ーこんにちは! レコードショップ開店、おめでとうございます!
ありがとうございます!
ー弓削さんはファッションブランド〈YUGE〉の代表兼デザイナーというイメージが一般的かとおもいますが、どうして異業種ともいえるレコードショップの立ち上げに至ったのでしょうか?
ブランドを立ち上げて18年ぐらいになりますが、もともと小さい頃から音楽が大好きで、洋服づくりにおいても常に音楽が何かしらテーマになっていました。
むしろ、ファッションをはじめたのも、いずれ音楽の仕事をやるため、というのが動機のひとつだったんです。
ーえ!そうだったのですか。むしろ音楽が先にあったと。
ミュージシャンになりたかったのですが、音楽で食べていくのは現実的に難しいぞ、と思って10代後半ごろに早々と諦めて。それならば音楽と密接な関係性にあるファッションで一線に立てば、いずれ音楽に関わることができるんじゃないかって思っていたんです。
ーとなると、弓削さんのなかではレコードショップをひらくのは、まっとうな流れなのですね。
そうですね。新しい挑戦ではあるんですけど、むしろ、語れるほうでいうと、音楽のほうが全然語れます(笑)。ファッションは、言語化すればするほど陳腐なものになってしまう側面がありますからね。
ーたしかにそうですよね。
ちなみに、自分でレジ打ちとか、店頭に立ってお客さんと直に接するの、このお店をオープンしてはじめてやったんです。43歳にして(笑)。
ーいいですね、43歳にして初の体験。
なんかね、お客さんとすっごい話しちゃうんすよね。洋服を売るときは全くそんなことなかったんです。展示会とかで、一応説明はするのですが、正直面倒くさいというか、語りすぎるのは野暮なところがあって。音楽は、いろんな垣根を飛び越えて語り合えるんだなーってあらためて実感しました。
ー音楽だと、どんな服を着ていても、年齢も性別も関係なく共感しあえますもんね。
そうなんですよ。全然関係ないですね。
新たなAORに特化したレコードブティック
ー「Adult Oriented Records」はレコードショップではなく“レコードブティック”という言い方をしていますが、どういった違いがあるのでしょうか?
従来のレコード屋のイメージだと、雑然としたようなところもあるとおもいますが、インポートブランドの洋服屋のように綺麗で洗練されたイメージにしたくて「ブティック」と呼んでいます。
また、幅広いジャンルを数多く取り揃えているというよりも、小さな規模で、特定の分野に特化したレコードを1点ずつ選んで揃えています。
ーその特定の分野とは、どのような音楽なのでしょうか?
店名を見て、ピンと来る方も多いとおもいますが、日本で80年代に生まれた“AOR”っていうジャンルがありますよね。アダルトオリエンテッドロック、直訳すると“大人目線のロック”という掴みどころのない言葉なのですが(笑)。
基本ロックなんですけど、ジャズの要素だったりを含んだ、1970年代後半〜80年代に生まれたアメリカの商業音楽のことを指していて。
それらのいわゆるAORと呼ばれている音楽もありつつ、このお店では“現代におけるAOR”を再構築したいとおもったんです。ロックだけでなく、ジャズや、ブラジルのサンバ、ディスコなどあらゆるジャンルのなかでも、洗練された、ムードのある音楽を僕はすべてAORだと思っていて。
つまるところ、僕が主観で選んだ“現代のAOR”、大人目線の音楽を専門的にとりそろえているお店になります。
ーそもそもAORって、「この条件を満たしているとAOR」といった定義みたいなものがあるのでしょうか?
それが、全然ないんです。不思議なジャンルなんですよね。日本人がつくった言葉なので、海外だと、アダルト・コンテンポラリーミュージックとか。そういう言葉に置き換えられてますよね。傾向としては、都会の洗練されたムードを感じさせつつ、夏や海をテーマにした音楽が多いです。70年代後半から80年代のアメリカ西海岸が、そういった音楽のメッカだったので。ロサンゼルスの感じとかが、あの空気感が伝わってくるような音楽が主流ですね。
ー弓削さんの考えるAORとは、言葉で説明するとしたらどのような音楽なのでしょうか?
言葉でいうと“洗練された”というのが最も当てはまります。もうひとつは、リゾートだとか、都心だとか、どこでもいいんですけど、聴いていて景色がみえてくる音楽、ですね。
幼少期から「アダルト・オリエンテッド」だった弓削さんの音楽遍歴
ー弓削さんの考える“現代のAOR”を紐解くべく、ご自身が影響を受けてきた音楽について伺えたらとおもいます。音楽の原体験はいつ頃で、どのような音楽を聞いていましたか?
原点として、いちばんはじめに好きになったのはビーチボーイズです。当時小学生で、10歳の頃からずっと聴いています。
ー10歳でビーチボーイズ!すでにアダルト・オリエンテッド(大人目線)ですね!
その次、いちばん10代で多感なころはポール・ウェラーが好きでした。ザ・ジャムっていうバンドを経て、スタイル・カウンシルっていうユニットをやった人ですね。それと同時にジェームス・テイラーっていうフォークのひともめちゃくちゃ好きだったりしつつ、
そのあとに、ドナルド・フェイゲン、スティーリー・ダンにすごいハマって。それと同時に、ブラジルにどっぷりはまってた時期がありますね。
アジムスなどのフュージョン系から、大御所の、アントニオ・カルロスジョビン、ジョアン・ジルベルトとか。
そこからどんどん、10代後半ぐらいから、フリーソウルブームがどーっときて、90年代なかばから後半って、世界でも東京にいちばんいいレコードが集まっていた時期なので。その時期はフリーソウル・ブラジルものをめちゃくちゃ買ってましたね。
ーこれって全部10代の頃のお話ですよね。周囲も同じようにブラジル音楽などを聴いていたのでしょうか?
いえ、10代の頃は友達と音楽の話はほとんどしていなかったですね。同じようにやんちゃをしたり、つるんでいたのですが、家に帰るとひとりでそのような音楽を聴く、という青春時代でしたね。例えば当時みんな聴いていたのがセックス・ピストルズやクラッシュでしたが、僕はパンクのなかでも当時一番お洒落だったジャムに夢中でした。
ーひとりだけ独自路線だったのはどうしてなのでしょうか。
うちの母親もファッションデザイナーで、ビーチボーイズや、山下達郎、大滝詠一のレコードが物心ついたころから家にあった、というのは大きいと思います。
弓削少年が10歳の頃、ビーチボーイズと同時期に触れたのが山下達郎さんの名盤「ビッグウェイブ」だったそう。「Adult Oriented Records」には、プロモーション版の、シールド(未開封)という激レアの1枚がある!
ーなるほど。ご両親の影響ですね。
もうひとつ、AORを好きになった原体験があります。僕東京出身なんですけど、うちのオヤジの田舎が愛媛で。夏休みになると毎年愛媛に行って、太平洋側の海で過ごすのが好きだったんです。この海をわたると、ビーチボーイズがいるカリフォルニアなんだなーっていうのを思い浮かべたりしてて。常にそういった、海とか空とか、そういったものに、惹かれる子供だったというのがあります。
ー東京生まれだからこそ感じる、田舎や海、自然への感性ってまさしくAORのような気がします。
そうですね。愛媛の田舎にいたのも、何泊何日とか単発ではなくて、2~3週間ほどある程度の期間滞在していたことが原風景として自分のなかにイメージが沈着した感覚があります。都会と、田舎の海と、両方あったっていう感じなので。
弓削さんが選ぶ、Adult Oriented Recordsを象徴する1枚
ー最後に、Adult Oriented Recordsを象徴するレコードを教えてください。
マイクフランシスといいまして、彼の音楽をもっと広めるべくレコードショップをはじめたといっても過言ではないほど最高なんです。聴いてみます?
ーはい!ぜひ!
(しばらく聴く)
ーうわぁ、めっっっっちゃいいっすね!
いいよね〜
ーえ〜、やば。え〜
いいんだよね。
マイクフランシスの名盤その1『Features』
ーどこの国の方なんですか?
彼はイタリア人で、ジャンルとしてはイタロディスコといわれる、イタリアのディスコ音楽。基本、イタロディスコってアホっぽいのが多いのですが、マイクフランシスは群を抜いて洗練されています。ビル・ウィザースの「ラブリーデイ」のカバーとか、10ccの「I’m Not in love」のカバーとかを、すごい小洒落たダンスミュージックにしていたり、オリジナルも全曲良い。衝撃をうけた1枚です。
ところが若くして、2000年代に亡くなってしまっていて、レコードも希少なんです。入荷するとすぐ売れちゃうし。すでに何人も入荷待ちをしている状況です。高いんですよこれ。7000-8000円くらいする。
マイクフランシスの名盤その2『Let’s Not Talk About It』
さきほどのがクラブとかでききたい曲がたくさん入っていて、こちらは家で聴きたい1枚。アルバムとしての完成度としては僕はこちらのほうが好きで、全曲良いです。
ーこれは、7-8000円でも欲しくなりますね。。
高いレコードは、それなりに理由がありますよね。このマイクフランシスは、うちでぜひ再販を出せるようにいまちょっとずつ動いていて。そうなるとよりお求めやすくなるかとおもいます。
ーぜひお願いします!
<その他、店内のここに注目>
「Adult Oriented Records」の特徴的なラインナップとして、カナダやスウェーデン、ノルウェー、イタリア、ブルガリアなど「アメリカ以外」の国のディスコ音楽も多く取り扱っている。アメリカと比べ、欧州のディスコは音数がすくなく洗練されたものが多いのだとか。
同名の、スリップマットレーベルも始動。YUGE(ユージュ)デザインの総柄パターンがスリップマットになっている。
1980年代の『INTERVIEW MAGAZINE』も販売。アンディ・ウォーホルが1969年に創刊した、アートピース級の雑誌。
7インチレコードの棚は、マルセル・ブロイヤーのワシリーチェアをリユースし、ぴたりとハマるボックスを作成。「これを思いついたときはめっちゃアガりました」と弓削さん。
弓削さん曰く、「基本的には、お店にはかわいい女の子スタッフが立ちます」とのことです。弓削さんにいろいろ音楽教わりたい!弓削さんと語らいたいという人は、基本的に裏にいることが多いので弓削の名を呼んでもらえたら、とのことでした。
Adult Oriented Records
【住所】〒151-0062 東京都渋谷区元代々木町10-7代々木五月ビル102
【電話】03-5738-2045
【営業時間】13時〜21時
【定休日】不定休
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